森本敏 (撮影/写真部・高橋奈緒)
森本敏 (撮影/写真部・高橋奈緒)

森本:その前に、麻生内閣で初代の防衛大臣補佐官になったんですが、野党政権に変わったので、大学に戻ったんです。そうしたら今度は野田(佳彦)総理から防衛大臣に任命されて、2期担当しました。そのあとまた自民党政権に戻り、中谷(元)さん、稲田(朋美)さん、小野寺(五典)さんの3人の防衛大臣の政策参与をつとめました。

林:国防という大事な問題を背負って、いろんな経験をされてきたんですね。

森本:職業はいろいろ変わったのですが、60年間一貫して安全保障の仕事ができたのは、多くの人のおかげです。ありがたいことだったと思っています。大学で学生に将来を語るとき、「天職を見つけなさい」という話をすることがあります。多くの学生は、どこかの会社に入ることを就職の目標と思っているフシがあるでしょう。でも、海外ではそれが当たり前ではありません。たとえばハーバード大の卒業生は、かなりの割合が起業するといいます。

林:そうですよね。

森本:長い人生の中では、いろんな職業に就くことがあるかもしれません。でも、天職を見つけて、それに自分の一生をかけるという生き方も、ひとつの生き方だと思っています。私は安全保障という仕事に出会えました。林さんも、作家という天職を長く続けていらっしゃいますね。

林:はい。天職を見つけると、定年もないし、楽しいですよね。お話がおもしろくて、お約束の時間をだいぶ過ぎてしまいました。きょうはどうもありがとうございました。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

森本敏(もりもと・さとし)/1941年、東京都生まれ。防衛大学校理工学部電気工学科を卒業後、航空自衛隊を経て外務省アメリカ局安全保障課に出向。79年外務省入省、情報調査局安全保障政策室長など、一貫して安全保障の実務を担当。退官後、野村総合研究所を経て拓殖大学に所属。その間、慶応義塾大学、中央大学、政策研究大学院大学などで講師・客員教授を務める。2009年初代防衛大臣補佐官、12年民間人初の防衛大臣に就任。16年3月から今年3月まで拓殖大学総長、4月から同顧問。

週刊朝日  2021年12月3日号より抜粋