(週刊朝日2021年11月26日号より)
(週刊朝日2021年11月26日号より)

 新型コロナウイルスがもたらした経済的打撃は、「遺産相続」にも影響を及ぼしている。緊急事態宣言発令による行動制限や、病院内での面会謝絶、株価の暴落をきっかけに、思わぬ“争続”に発展したケースを紹介する。

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 愛知県在住の70代男性Aさんは、昨年春に父親を亡くし、不動産(実家の一軒家)を相続することになった。

「8年前に母を亡くした後、妻子と一緒に実家に移り住み、父の介護をしながら暮らしてきました。私には姉と妹がいますが、どちらも遠方に住んでいて相続放棄しても構わないとのことだったので、このまま実家に住み続ける予定でした」

 ところが新型コロナの感染拡大により、状況は一変する。緊急事態宣言の発令により、妹の夫が経営していた飲食店の売り上げが激減。その後、妹夫婦から「相続放棄はしない。法定相続分の財産を受け取りたい」とAさんに連絡が入ったのだ。

「父は遺言を残しておらず、財産は不動産だけで預貯金はありませんでした。そこで土地の権利を分割することも提案したのですが、拒否されてしまいました」

 結局、不動産の評価額を算出し、法定相続分の現金(代償金)を支払う「代償分割」を行うことで決着したが、「仕方ないとはいえ、老後の蓄えから数百万円を持ち出すのはかなり痛手」とAさんは話す。

 Aさんの相続トラブルはこれで終わらなかった。不動産の相続登記を進める中で、司法書士から戸籍謄本の調査結果について連絡があり、父親に前妻との子どもがいることがわかったのだ。

「寝耳に水でしたね。父は母と出会う前に婿養子に入っており、前妻との間に子どもを3人もうけていたんです」

 法律上、前妻の子は後妻の子と同等の相続権を持つため、遺産分割協議を行わなければならない。しかし関係性が完全に途切れているうえに、コロナ禍で思うように動くこともできず、相続手続きは暗礁に乗り上げたままだという。

「もしかすると家を手放すことになるんじゃないかと今も不安です。遺産相続は気が滅入ります」

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