(週刊朝日2021年11月26日号より)

 OAG行政書士法人で、これまで500件以上の相続・遺産整理支援業務に携わってきた行政書士の加藤健司さんは、「新型コロナの影響により、遺産相続を進めるうえで大きく二つの問題が生じた」と話す。

「一つは、遺産相続に必要な手続きが進めづらくなったことです。故人の財産を相続するためには、諸々の必要書類を役所や税務署、金融機関の窓口に提出しなければなりません。しかし、特に緊急事態宣言下では、入室制限や窓口予約が必要なところも増え、通常よりも多くの時間がかかりました。もう一つは、相続人間での話し合いが困難になったこと。コロナの影響で葬式が直葬になったり、長距離移動が制限されたりしたことで、遠方に住んでいる兄弟姉妹と遺産分割協議を進めたくてもできないという状況が多く生じました」

 相続の手続きには、期限が設けられているものも多い。例えば、「相続放棄」は被相続人の死後3カ月以内、「準確定申告」(被相続人に代わって相続人が行う確定申告)は死後4カ月以内、「相続税の申告」は死後10カ月以内に原則として手続きが必要だ。

 だが、加藤さんが挙げた二つの事情により期限内に間に合わず、延滞税などのペナルティーを受ける場合もあると言う。

◆コロナで株暴落 財産4分の1に

「私が担当した中では、法定相続人と連絡が取れず、遺産整理が進められないケースがありました。そのご家族は、今年の2月に父親が亡くなり、母親と姉妹2人が法定相続人となりましたが、長女が精神的な病気で人と会話することができない状態で、長らく音信不通となっていました。依頼人のご家族は東北、長女は関西に住んでいたため、しばらくは電話やメール、手紙などで一方的に連絡していましたが、半年経っても返信がない状態。父親は財産が1億円近くあったため、あと数カ月以内に相続手続きを完了させないと申告期限に間に合わない状況に追い込まれ、依頼人もかなり焦っていました」

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