国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の鈴木啓介・先端医療開発推進センター長は言う。

「主観的記憶障害の状態はほとんど無症状で発見が難しい。『髄液検査』もありますが、これは脊髄(せきずい)に針をさし、髄液内のAβを測定するもの。アミロイドPETと同じで、髄液検査も自費となり、金銭的にも物理的にもハードルが高い印象です」

 国立長寿医療研究センターは、島津製作所・田中耕一記念質量分析研究所との共同研究で、血液から認知症の前兆を予測する早期検出法を開発した。同センターによると、実用化すれば、認知症治療薬の開発促進や診断、予防に極めて有効になると考えられている。ただ、そうなるまでにはまだ時間がかかるという。

 予防しても防げない場合も多い。認知症になった場合、どんな治療ができるのだろうか。

 現在、国内で承認されている認知症薬は4種類。いずれも不足する神経伝達物質の補充や、神経細胞の活性化を狙うものであり、一時的に認知機能を向上させるが、病気の進行を緩やかにする効果はなかった。

アデュカヌマブをエーザイと共同開発したバイオジェンの研究所(エーザイ提供)
アデュカヌマブをエーザイと共同開発したバイオジェンの研究所(エーザイ提供)

 そんな中、日本の「エーザイ」と米「バイオジェン」が共同開発した「アデュカヌマブ」が、アルツハイマー病の治療薬として6月、米国食品医薬品局(FDA)に承認された。この薬は病気の進行を完全に止めることはできないが、悪化するスピードを緩やかにするとされ、これまでとは違うタイプ。世界的に大きなニュースとして報じられた。

 とはいえ、今回の承認は追加治験での検証が条件となっており、十分な効果がなければ取り消される可能性もある。また、その後、対象をアルツハイマー病によるMCIか、軽度のアルツハイマー病患者とするよう薬の添付文書を改訂した。

 現在、日本でも審査が続けられているが、薬価の高さも気になる。両社は、米国での価格が4週間に1回の投与で年間約620万円になると公表した。

 アデュカヌマブの承認について前出の鈴木さんは「安全とは言い切れない面があり、正直びっくりしました」と話す。

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