実は原稿のご執筆だけでなく、原稿のチェック、当方からのご提案へのお返事など、すべてにおいてリアクションが早いのです。ズルズル先延ばしする自分は毎回横尾さんに、しっかりやれよと諭されているようで、それも慶びでもあります。横尾さんの小気味よく、序破急あるノリが、そのまま文章に表れて、毎回心が動かされています。

 この連載は今回で110回目を迎えましたが、最近ご興味を持たれた方は、初期の連載をまとめた単行本『往復書簡 老親友のナイショ文』(小社刊)も出版されています。まとめて読むと瀬戸内さんと横尾さんの掛け合い、お互いがどう思いあっているのか、それぞれの考え方の相違などがわかり、日本を代表する芸術家のお二人の頭脳を垣間見るようです。

 カバーの絵は黄色の鮮やかな背景に、中心には二羽の鶴、下に亀、そして左に男の人がこの光景を覗いている横尾さんの手による素敵な絵画です。

 この絵には実は別のバージョンがあるのです。それは瀬戸内の小さな島・豊島にある豊島横尾館に展示してあります。

 豊島横尾館に行くには高松港から“瀬戸内”の海を船に揺られて約35分、家浦という港に向かいます。のどかな島の一本道を歩くと大きな円筒のある民家が目の前に現れ、そこが豊島横尾館です。ここが本当に美術館?と思われるかもしれません。3棟からなる古民家を建築家の永山祐子さんがリノベーションしたもので、外観からの予想とは打って変わって、異世界が広がっています。この美術館は横尾さんの創造の基底にある「死の祝祭」をイメージしたものでもあるそうです。

 さて、先に紹介した表紙の絵について、豊島横尾館にある絵画は「原始宇宙」という題名で、カバーの絵とはいくつかの違いがあります。それは……。是非是非、現地で現物を見てください。

 そうそう、豊島横尾館に行く際には『往復書簡 老親友のナイショ文』の本の絵をそっと見せてくださいね。そうすると美術館の方の笑顔という素敵なプレゼントをいただけるはずです。

週刊朝日  2021年11月12日号