来年2月に北京で冬季五輪が開催され、中国は新型コロナウイルス対策に万全の対策をとるとみられる。米国のトランプ前大統領はコロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼んだが、発生源はよくわかっていない。

米国で炭疽菌の事件があった2001年、日本でもテロに備えた生化学物処理訓練が行われた (c)朝日新聞社
米国で炭疽菌の事件があった2001年、日本でもテロに備えた生化学物処理訓練が行われた (c)朝日新聞社

 その中国で今夏、別の感染症で感染者、死者が出た。現地報道によると、山東省で8月、炭疽(たんそ)菌の感染者を2人確認。そのうち1人は発熱、気だるさ、嘔吐(おうと)、下痢などの症状で、治療を受けたが死亡したという。

 炭疽菌は「バイオテロに利用されやすい菌」と厚生労働省研究班のバイオテロ対応ホームページは指摘する。日本では家畜の法定伝染病だが、東京都健康安全研究センターのサイトによると、1974年以降に国内で感染はみられず、米国で2001年に粉と一緒に同封した郵便物が送られたことがあった。

 この都のサイトによると、潜伏期は1~7日程度、主に皮膚炭疽、腸炭疽、肺炭疽があり、いずれも治療しないと死亡することがある。

 冒頭の事例で、死亡した10代の男性の家では7月に病気の牛を処理していたとみられるという。中国政府は炭疽患者が昨年224人あり、死者はなかったとする。

 日本でみられなくなった感染症が、中国で多くの患者がいるのはなぜなのか。農林水産省の担当者は、その遠因として中国には口蹄疫(こうていえき)など家畜の伝染病が多くあることを挙げる。獣医師で医療経済ジャーナリストの室井一辰さんも、中国で最近、アフリカ豚コレラの大発生など、家畜の伝染病が問題になっており、国土が広く、さまざまな野生動物が生息し、自然界の病原菌が人間社会に入りやすいのではとみている。

「日本では家畜の伝染病が発生すると、病気の個体だけでなく、集団全体を殺処分し、かなり厳しく対応している。中国はそこまで徹底しきれていないのではないか。結果として病気が蔓延する」(室井さん)

 日本に入ってくる恐れはないのか。動物を介した感染について、農水省の担当者はこう話す。

「中国から生きた動物が入ってくることはない。生肉も輸入しておらず、加工・冷凍食品はすべて加熱されている」

 冬季五輪開催で、中国には世界中から人の往来が増える。十分な感染症対策が求められる。(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2021年10月29日号

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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坂口友香

坂口友香

主に週刊誌の芸能記者として活躍。これまで写真誌、女性誌、男性誌など数多くの雑誌で取材執筆。

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