冷やし中華を作った一日を紹介した「すみちゃんねる」の動画
冷やし中華を作った一日を紹介した「すみちゃんねる」の動画

 今やYouTubeに投稿する「ユーチューバー」は、若い世代だけではない。シニア層も進出し、独自の視点で動画を公開している。そんな「シニアユーチューバー」の魅力や原動力に迫る。

前編/80代YouTuberの「ジジイ・昭和あるある」が話題 本人「同情票ですよ」】より続く

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60代主婦の女性が運営する「すみちゃんねる」は、穏やかな眼差しでささやかな日常を切り取る動画で人気だ。女性は、YouTubeを始めた当初、「家族が見てくれればいいと思っていた」と話す。

「2年前、自宅で介護していた92歳の義理の母の様子を動画にしてアップしたんです。『認知症だけど、おばあちゃん元気にしてるよ』って子どもや孫に伝えたくて」

 当時チャンネル登録者は5人ほどで、夫がこまめに動画を見て再生回数が20回に達する程度だったが、楽しかった。次第に散歩や料理など自身の日々の暮らしを動画で紹介するようになった。

 昨年5月26日。忘れもしないその日に、突然転機が訪れた。フレンチトーストを作る様子を撮影した動画の再生回数が、突然2千回に跳ね上がったのだ。驚いた女性は、「どうしたんやろか」とLINEで娘に尋ねた。すると娘は「バズったんやわ」。

 ネット上で、短期間で急激に注目を集めることを指す「バズる」。そのきっかけは、とあるブロガーが自身のブログでシニアユーチューバーについて紹介し、フレンチトースト動画にも触れたことだとみている。チャンネル登録者は数日のうちに千人に達し、その後も月に千人のペースで順調に増えたという。

 すみちゃんねるの魅力は、その飾り気のなさだ。シーツを洗った、冷やし中華を始めた、区役所の帰りに花を買った……。日常の一コマを慈しむ姿は、自然と見る者の気持ちをほっこりさせる。

 女性ははにかみながら、こう話す。「朝ごはんを食べて、仕事に行く主人を見送って、夕方『ただいま』って無事に帰ってきてくれる。コロナもあり何が起こるかわからない世の中で、そんな日常はすごく特別じゃないかと思うんです。塩サバとお味噌汁だけの献立の日もあるし、画面映えするおしゃれなお皿も持ってないけど、日々の感謝をこめた動画にしたいと思っています」

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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