(週刊朝日2021年10月22日号より)
(週刊朝日2021年10月22日号より)

 住み慣れた家で最期を迎えたい──。だけど在宅療養はお金がかかるに違いない。そう考えている人は少なくないだろう。だが、入院するより安く済む場合が多いという。在宅死した人が実際にかかった1カ月の費用を調べてみると、驚くべき事実がわかった。

【表で見る】78歳女性、胃がん末期、要介護2、医療保険1割負担、余命1カ月の例はこちら

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「在宅療養は、お金がかかる富裕層の医療というイメージでした。入院よりずっと高い費用がかかると思っていたのです」

 こう話すのは昨年、78歳の母を亡くしたA子さん。胃がんを患い、要介護2の状態だったA子さんの母は、がんの発覚後、しばらくして体調の異変から入院。その時点で医師から「余命は、もって半年だろう」と告げられた。それまで大きな病気をしなかったこともあり、不安や異変を感じたら、すぐに看護師を呼べる病院は何かと安心だった。だが余命宣告を受け、「残された時間を、このまま病院で過ごすのは嫌だ」と心を決め、症状が落ち着いたタイミングで自宅に戻り、近くに住むA子さん家族が見守る形で、在宅療養に切り替えた。

(週刊朝日2021年10月22日号より)
(週刊朝日2021年10月22日号より)

 <表1>は、A子さんの母が亡くなる前の最後の1カ月でかかった費用だ。約4カ月ほどだった在宅療養期間だが、費用は最後の1カ月が一番高く、それまでの3カ月間の自己負担額は、ひと月約3万~4万円前後だったという。

「病院に入院していたときは、部屋の差額代に加え、食事やパジャマ・タオル代などで、1カ月で20万円強かかりました。これに加えて医療費が5万7600円かかり、1カ月の負担額は26万~27万円ほど。母が『家に帰りたい』と言ったときには、もっとお金がかかるのではと心配もよぎりましたが、在宅療養がこんなに安いとは驚きでした」

 在宅療養というと、高額な費用がかかると思われがちだが、保険が適用されることから、実際には入院より安く済む場合が多い。何にどれだけお金がかかり、入院と比べてどの程度安くなるのか。基本的な仕組みや保険とあわせて解説しよう。かかる費用は大きく分けて「医療」と「介護」のふたつ。まずは「医療」から見ていきたい。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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