作家・コラムニスト、亀和田武氏が数ある雑誌の中から気になる一冊を取り上げる「マガジンの虎」。今回は前回に引き続き、「ナンバー」。

【写真】“驚くほど美しい妻”と米で話題になったマー君の奥様はこちら(他7枚)

*  *  *

 四球、そしてまた四球。ここまでやるかという、相手チームの勝負回避には、私も呆れた。

 大谷翔平を取り巻く状況はこの1週間で激変した。ホームラン王を狙おうにも、申告敬遠されては打席にも立てない。いま、彼は何を考えているか。「ナンバー」(文藝春秋)9月24日号を読み返して、胸中に思いを馳せる。

 6月、7月の大谷はホームランを量産していた。だが8月以降、その勢いは鈍る。「ウチのように補強もしないで弱いままのチームでプレーする」のが、いかにキツいかを語る。「この1カ月が一番しんどいと思うし、大事」と覚悟もしていた。

 しかしここまで厳しい状況がくるとは。打者としては真っ向勝負を回避され、マウンドで好投してもリリーフ陣が打たれ、打撃陣は点を取れない。打線の援護なしで降板するとき、思わずバットを叩きつける大谷。

 野球少年の頃を問われ、「一番、野球が楽しかった時期はリトルリーグのときですから」と、彼は答える。楽しさの種類が、今とは違うとも。「小っちゃい頃は単純に野球をゲームとして楽しめていましたし、やっぱりあの頃のほうが楽しかったかな」という言葉を聞くと切ない。

 トラウトたちチームメイトの証言も読ませる。MLB中継を観ていて楽しいのは、同僚選手たちの顔と名前、その実力と性格まで知っていくプロセスだ。同僚たちは、誰もが翔平を讃える。「他球団の選手でさえも彼のプレーを見て楽しんでいる」と、あのトラウトも絶讃する。

 その翔平が、好投したのに勝てなかった試合後に「チームは大好きだが、それ以上に勝ちたいという気持ちが強い」とまで口にした。いつも楽しそうにプレイする野球の申し子が、そこまで追いつめられた。残りは僅か。全試合を観なくては。

週刊朝日  2021年10月15日号