千葉雅子さんは劇団「のホテル」主宰として30年、ずっと敗者が持つ“バカ哀しさ”を描いてきた。それが、両親との別離、パートナーとの入籍を経て、初めて、闘う女性を描きたいと思った。

千葉雅子さん(提供)
千葉雅子さん(提供)

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 劇団「猫のホテル」が、30周年記念本公演に選んだのは、女二人の話だ。タイトルは「ピンク」。チラシには、「欲望のまま登りつめようとする荒々しいおんなの闘いを描く」とある。

「この年になってようやく、自分が子供の頃から縛られてきた“女は女らしく”といった世間からの圧力に対して、『もっと問題意識を持ってよかったのに!』という気づきがあったんです。コロナになる少し前、両親を見送ったのですが、一人になって、家を整理したりする中で、なぜあんなにも『女の子なんだから』と言われて育てられて、疑問を持たなかったのか。ピンクは、女の子の色なんて、誰が決めたのか。過去を振り返りながら、いろんな理不尽な思い出が蘇ったんです」

 千葉さんは、向田邦子さんの小説に出てくるような、家父長制をきっちり守っている父と専業主婦の母の元で育った。

「兄がいて、兄にはいろんな期待がかかっていましたが、私には、『女なんだから、別に大学なんて行かなくてもいいんだぞ』みたいなことをさらっと言うような。しかも、父が割と波瀾万丈の人生を送ったせいで、家族仲が悪く、家に私の居場所がないことが悩みでした。その分、学校はものすごく楽しかった。小中高一貫の、キリスト教系の女子校に通っていて、学校に行けば、家でのつらさを忘れられたんです」

 友達が女子大やキリスト教系の大学に進学する中、千葉さんは一人、國學院大学に進学した。

「女子校は居心地が良かったけれど、本当の自分の居場所はここじゃないと思っていたのかな。親に対しては、少し強情を張った部分もあったかもしれません。強権的ではないけど、『女の子なんだからこうしなさい』という考えを当たり前のように押し付けられていた。でも、ずっと『世の中ってそういうものだ』とも思っていました」

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