東京地裁・東京高裁が入る庁舎(C)朝日新聞社
東京地裁・東京高裁が入る庁舎(C)朝日新聞社
2008年、長女を抱く朴被告(「支援する会」提供)
2008年、長女を抱く朴被告(「支援する会」提供)

 2017年1月、講談社の漫画誌「モーニング」の朴鐘顕編集次長(当時。現在は退職)が妻に対する殺人の容疑で逮捕された。『GTO』などを担当したエース編集者の逮捕という異例の事態。裁判は一審、二審とも有罪となったが、支援者団体は、これまでの審理に問題があると指摘している。

 今年5月、本誌編集部に分厚い茶封筒が届いた。差出人は「朴鐘顕くんを支援する会」。裁判の経緯と問題点をまとめた膨大な資料が入っていた。

 会は、1月に控訴審で一審と同じ懲役11年の実刑判決が下った後、判決に疑問を感じた朴被告の友人らが結成。公正な裁判を求め署名活動やウェブサイトでの情報発信などを行っている。メンバーで、朴被告の大学時代からの友人である佐野大輔さんはこう語る。

「事件の数カ月前、朴の奥さんから、家族ぐるみで遊びに行こうと誘いがありました。そのくらい朴の家族仲は良かった。奥さんを殺す動機があるとは思えません」

 朴被告は、妻の死は自殺だったとして、無罪を主張している。佐野さんが朴被告の無罪を信じて闘うのは、長年の友人としての思いからだけではない。

「裁判では殺人を裏づける確たる証拠はなく、有罪の理由は常識的に見てもほころびだらけ。こんな異常な判決がまかり通る司法の現状に強い危機感をおぼえています」

 事件があったのは2016年8月9日未明。当時、自宅には妻・佳菜子さんと4人の子どもがいた。朴被告の供述では、その日、朴被告が帰宅すると、以前から産後うつと診断されていた佳菜子さんが包丁を手にしており、0歳の末っ子がいる1階の寝室に向かった。慌てて追いかけた朴被告は寝室で佳菜子さんともみ合った後、末っ子を抱え2階の子ども部屋に避難した。

 数十分後、部屋を出ると、佳菜子さんは階段の手すりに巻き付けたジャケットを使い自殺していたという。

 亡くなる数時間前、佳菜子さんは「夕ご飯のこと考えられない」「涙が止まらない」など、不調を訴えるメールを15通、朴被告に送っていた。

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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