奥寺さんは盛岡市の出身。外科医の父と専業主婦の母を持ち、裕福な家庭に生まれ育った。学生時代、東京に遊びに来た際に声をかけられ、ファッション誌のモデルとして活動を始める。大学を卒業した後は、千葉県内の歯科医院で研修医として勤務。モデル時代の知り合いに誘われ、ゆくゆくは歌舞伎町で歯科医院を開くことが決まっていた。

 開業を視野に入れて奥寺さんがしたことが2つある。1つは、歌舞伎町でホストの仕事を始めたこと。当時、研修医の収入は月15万円。出勤中、マクドナルドの前を通ると「こっちで働いた方が儲かるな」とため息をつくこともしばしばだった。歌舞伎町を知ることを目的に、平日は21時まで歯科医院で働き、その後、店に出勤。朝の5時まで接客する日々を続けた。

 もう1つは、フジテレビ系の人気番組「あいのり」に出演したこと。「あいのり」は見知らぬ男女7人が「ラブワゴン」と呼ばれる車に同乗し、各国を旅しながら愛を育む模様を追う恋愛バラエティーの先駆けともいえる番組だ。2006年1月にハンガリーで乗車し、約5カ月かけてオーストリアやスイスを巡った。

 開業前に知名度を上げることが目的だったが、旅先での経験は自身の価値観に大きな影響を与えた、と奥寺さんは振り返る。
「歯科医を目指すのはお金持ちが多く、歌舞伎町も華やかな世界でした。ところが、あいのりでは日々の予算が決まっていて、食べるものも満足にありません。おなかがすいて仕方ありませんでしたが、世界には自分とは違う価値観や文化で生きている人たちがいると、身をもって学ぶことができました」

 旅行中、奥寺さんは一緒にワゴンに乗った女性に恋をした。女性が番組スタッフに思いを寄せていたことがわかり、一度は旅をリタイアするが、帰国後にカップルとなり、ほどなくして結婚した。「有名になりたい」と出演していたため「誰かとカップルになるということは考えていませんでしたし、結婚はさらに予想外でした」と奥寺さんは振り返る。

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世界を旅した「あいのり」の経験から