派手な「あーす歯科」の外観
派手な「あーす歯科」の外観
「一度だけ無料で診ます」と書かれた看板
「一度だけ無料で診ます」と書かれた看板
あーす歯科院長の奥寺大さん
あーす歯科院長の奥寺大さん

ある日、東京・東村山市の秋津駅(西武池袋線)から新秋津駅(JR武蔵野線)まで約300メートル続く商店街を歩いていると、ピンク色の派手な看板が目に留まった。近づいてみると、「あーす歯科」という名の歯科医院だった。看板に、こんなメッセージが記されている。

「このご時世ですので毎日2千円以内に治療はできないかとか 後払いはできないかとお問い合わせいただいております。どうしてもお支払いが難しい痛みでお困りの方 当日はご予約の方がいらっしゃいますので 次の日の院長のお昼休みに一度だけ無料で診ますので 保険証もお金もいりませんので 院内でご予約ください」

 実質無料で診察。いったい、どうしてこんな取り組みをしているのだろう。話を聞いてみることにした。
 取材当日、院内の椅子に腰かけて待っていると、診察室から長身の男性が現れた。この男性こそ、あーす歯科の院長にして「1回診察無料」の考案者、奥寺大(まさる)さん(46)。40代とは思えない若々しさだ。
 奥寺さんはなぜ「1回無料診察」の取り組みを始めたのか。

「コロナ禍に突入してから、『次回の診療費はどのぐらいですか』『支払いは給料日後でも構いませんか』などの問い合わせが増えました。なかには国民健康保険料を払えずに、資格が停止してしまった方もいました。そういう方たちのために何かできないかと思ったことがきっかけです」
 現在は週平均で2、3人の申し込みがあり、昼休みに対応している。診療にあたって、個別に事情をたずねることはない。

「一般患者と同じように『大変でしたね、どこが痛いんですか』と治療を始めます。さすがに『何でお金ないんですか?』と、こちらからは聞けませんから。ただし自分から打ち明けてくださる場合はあって、お話を聞く限りでは失業した方が多い印象です」

「1人1回」が原則だが、治療が終わらず、継続して通っている患者もいる。その場合も治療費は発生しない。なぜ、そこまでするのか。そこには、奥寺さん自身の過去が関わっていた。

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