林:いつもSPがついてるおじいちゃんを見て、「おじいちゃん、やっぱりすごい人なんだ」と思ってました?

宮澤:祖父は公私をはっきり分けたがった人でした。うちは1週間に一度、日曜日の夜に家族でごはんを食べるのがルールで、そのときの祖父の姿はよく覚えてるんですけど、仕事をしている姿を見ることは非常に少なかったです。秘書さんとかSPさんの存在は常に感じながらも、家族が住むエリアと秘書さんたちがいらっしゃるエリアは、屋敷の中で明確に分けられていて、子どもの私が仕事場のエリアに入ることはなかったですね。聖域といいますか。

林:そうなんですか。宮澤喜一さんは戦後最も頭のいい総理と言われていたし、奥さまもすごい方で、戦前、日米学生会議出席のときに出会われたんでしょう?

宮澤:そうなんです。船の中で出会って、当時としてはめずらしい恋愛結婚をして。

林:エマさんのお母さまも、たしかルフトハンザ航空かどこかにお勤めで、めちゃくちゃカッコよいキャリアウーマンのうえに、美しい方でした。私など本当に憧れたものです。

宮澤:そんなふうに言っていただけたら、母はほんとに喜びます。

林:エマさんも天下のケンブリッジに留学するし、やっぱりすごいですね、宮澤家のお嬢さまは。

宮澤:ハハハ、とんでもないです。たしかに、私の周りは秀才だらけで、姉はハーバードに行きましたし、母も慶応とコロンビア大のMBAを出たりして、みんな勉強が大好きな中で育ったんですけど、私は家族の中ではほんとに劣等生で、こうまで勉強ができない子はめずらしいというか、「この子は将来どうなるんだろう」ってみんな漠然と不安に思ってたんじゃないでしょうか。私の父のラフルアー家のほうは芸術を愛する人が多くて、私はそっちの流れを受け継いでいるんじゃないかと思いますね。

林:でも、宮澤一族として当然、期待は大きいわけでしょう。エマさん、「政治家になりませんか」って言われなかったですか。「広島から立候補しませんか」って。

宮澤:とんでもない! ないですないです! 向こうもお断りだと思いますよ(笑)。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

宮澤エマ(みやざわ・えま)/東京都生まれ。米オクシデンタル大卒、在学中に英ケンブリッジ大へも留学した。宮澤喜一元首相は祖父。2012年にデビューし、演出家・宮本亞門氏の勧めでオーディションを受け、13年に舞台「メリリー・ウィー・ロール・アロング~それでも僕らは前へ進む~」に出演。その後、「女の一生」「ウェイトレス」など舞台を中心に活躍。7月に三谷幸喜が手掛ける舞台「日本の歴史」(7月6~18日新国立劇場中劇場 23~30日梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ)への出演を控える。22年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」出演も決定している。

週刊朝日  2021年7月9日号より抜粋