コンサートの出演者からは後日、感動さめやらぬ声が発信されていた。

 森口博子は、自身のブログで「4歳から歌手になりたくて、小学生の頃、中野サンプラザで行われていた全国放送のちびっこの歌番組で、筒美京平先生の作品を、毎年のように、生バンドで何曲も歌わせて頂きました」と振り返り、「子供の歌番組で歌った裕美さんの『九月の雨』を舞台袖で聴けて、感動しました」「ドラマティックなメロディー、色褪せない名曲だと改めて実感しました。筒美京平先生の偉大な作品は、私達の細胞に深く刻み込まれています」とつづった。

「セクシー・バス・ストップ」(浅野ゆう子)のカバーを披露した野宮真貴も、ツイッターで「筒美京平さんのメロディとそれを表現するスターへの憧れが、歌手・野宮真貴の原点だったのね。幼い頃『歌手になりたい』と誓ったあの頃に自分に自慢したい」と振り返っている。

 筒美さんが、幼い子からアイドル好きのティーン、ニッチな音楽ファンに至るまで、幅広い層に訴える卓越したセンスと力量を持った音楽家だったということだろう。

 昭和から平成、そして令和へと、日本人の趣味や嗜好(しこう)が多様化し、インターネット社会の急進によって表現や発信方法も様変わりしている。

 世代間の断絶さえも指摘される現代にあって、筒美さんが残した歌の数々は、世代を超えた“共通言語”のようにも感じられる。

 実際、若者の間で昭和時代の歌謡曲や90年代のJ‐POPが再び脚光を浴びている。そしていま、「コロナ禍や災害などで不安になった時、口ずさむと自分を励ましてくれた」(60代女性)などの声もいただいた。

 半世紀を超える音楽キャリアのなかで、数え切れないほどの感動を与えた筒美さん。残された楽曲が今後も時代を超え、人びとに愛され続けることを願いたい。(中将タカノリ/本誌・宮崎健)

週刊朝日  ※週刊朝日  2021年5月7-14日合併号