※写真はイメージです (GettyImages)
※写真はイメージです (GettyImages)

 中村敏子著『女性差別はどう作られてきたか』(集英社新書、780円[税抜])の書評を送る。

*  *  *

 著名人の女性蔑視発言が止まらない。そして、日本のジェンダーギャップ指数は常に世界の下位に低迷している。その起源を知りたい方には必読の一冊である。それは江戸時代の「儒教」か、それとも明治民法の「家制度」か。核心に迫る。

 著者は、自らが研究する政治思想史の観点から、女性差別が生まれるまでの過程を分析。西洋と日本の道程を辿りながら、差別の背景を「家父長制」という概念から読み解いていく。思想史を対比して彼我の違いを鮮明にする手腕たるや、見事というほかない。

 そこから浮かび上がるのは、西洋のトマス・ホッブズ、日本の福沢諭吉の重要性だ。キリスト教が家父長制を形づくるなか、神のいない自然状態を前提としたホッブズ。「万物の霊」として男女の差をつけなかった福沢。この問題を解く鍵を与えてくれる本だ。(吉村博光)

週刊朝日  2021年4月23日号