新国立競技場そばの五輪マーク (c)朝日新聞社
新国立競技場そばの五輪マーク (c)朝日新聞社

 作家・コラムニスト、亀和田武氏が数ある雑誌の中から気になる記事を取り上げる「マガジンの虎」。今回は「週刊文春」。

*  *  *

 五輪の迷走、いや暴走が止まらない。大会組織委員会は、五輪の開会式を巡るトラブルを報じる「週刊文春」(文藝春秋)の記事に抗議し、掲載誌の回収まで求めた。

 橋本聖子新会長の体制下で、大きな変化は望めないと思っていた。しかし「組織委の秘密情報を意図的に拡散し、業務を妨害したと判断した」と定例会見で強調した(朝日新聞4月3日)橋本会長を見ると、組織委の体質はさらに硬直化し、傲慢の度も増しているとわかる。

 終わったな。これが正直な感想だ。国民が喜ぶスポーツの祝典。まだ1割は残っていた可能性も、この露骨な報道規制でほぼ消えた。朝日の記事には「組織委は、警察に相談しながら内部調査にも着手し、開閉会式を業務委託した電通に対し、徹底調査と報告を求めた」とも。“犯人捜し”が、橋本新体制での最初の仕事とはね。

「週刊文春」は大健闘しているよ。朝日新聞連載「新聞ななめ読み」の最終回で池上彰氏は書く。最近の紙面の“お行儀”の良さを見る限り「何が何でも特ダネを取るのだという意欲が薄れてしまったりする恐れがあるように思えます」。

 特ダネ連発の「週刊文春」。かつての「噂の真相」を思いだす。発行人の岡留安則に「よくネタが次々と取れるね」と訊いた。すると「向こうから情報が入ってくるんだ」と答えた。企業の内部リークもあるが、スクープ記事をボツにされた週刊誌の記者たちが憤って、ボツネタを提供してくれるという。

 特ダネによって政局までが動く。それを見て、編集部にはさらに情報が入る。新聞にもそんな好循環が生まれれば。組織委の文春抗議を各種メディアはあまり報じてない。そんなネタに大きく紙面を割いた朝日新聞は偉い。週刊誌と新聞のスクープ合戦が見たい。

週刊朝日  2021年4月23日号