中野:自分と違う考えを知ったことで自分はより豊かになった、と考えられないのは残念です。

和田:日本は失敗しないという前提で物事を進めます。アメリカとの戦争も、負けると思っていなかったわけです。原発も、事故が起きない前提でやっているでしょう。

中野:そうですよね。私が留学していたフランスでは、原発事故は「あってはならない」ことだけど、「事故ゼロ」もありえない。いざ事故が起きたときにどうすれば被害を最小限に抑えられるか、という考えがしっかりあったのは興味深いことでした。

和田:日本だと、いじめをなくそうとか、コロナをなくそうという方向で考える。いじめられた子がいたらどうしようかとか、コロナの患者をどうしようかということは、あまり。だから1年経っても、医療体制が逼迫なんて状態なんです。

中野:極言すれば、なかったことにするか、起きたときにどうするか対処法を準備しておくかの2択ですが、後者のほうが、建設的な方法だと思います。

和田:医療については、過度な専門化が進んだことも問題です。そのうえ、ある専門家が言ったことについては、他の分野の専門家は反対意見を言わないという不文律ができてしまいました。たとえば循環器内科の医者にとって、コレステロールは天敵です。動脈硬化を引き起こしやすいから。でもコレステロール値が高いほうが、免疫力は高い。免疫系の医者はそう主張すべきなのに、先に診た循環器系が減らすように言ったら黙っちゃう。

中野:たしかに。

和田:コロナ対策で、感染症学者は外出を控えるように訴えました。感染のことだけを考えたらそうだけど、精神科医の立場から考えると絶対にまずい。免疫学的にもまずいし、老年医学の見地でもサルコペニアの原因を作っているようなものでまずい。でも感染症学者だけが暴走し、他の科の先生方は何も言わない。

中野:領域横断的な議論がしにくいということは、ずっと前から言われてるんですよね。そのひずみが表面化したんですね。

(構成/本誌・菊地武顕)

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