中野:学習性無力感に類する心理ですね。

和田:ええ。日本は原爆を落とされ、アメリカにサレンダー状態にされてしまった。そのため従順になってしまったんだと思います。戦争の前、大正時代なんかは本当に自由だったのに。

中野:ヨーロッパの研究者が面白い実験をしました。被験者に対してルールを説明して、ゲームをさせるんです。でもそのルールには仕掛けがあり、ゲームを続けていくうちに「ルールがおかしい」ことに気づくようになっているんです。被験者の反応は、2種類に分かれます。「先生の言ったルールは間違っている。自分で考えたルールにのっとってやったほうがいい」という人と「先生が言ったんだから、最後までそのルールでやる」という人と。ふたつのグループの遺伝子を比べたら、ドーパミンの代謝酵素に変異があることがわかりました。国別にその変異の割合というのも調査されましたが、日本人はルールを変えない、つまり先生の言ったことに従いやすい人が多いんです。

和田:それに加えて僕は、日本の大学教育に致命的な欠陥があると思うんですよ。高等教育では、物事を疑うことが大切。教授とディスカッションするとか喧嘩をするくらいのほうがいい。

中野:同感です。人が決めた答えを選ぶのが、これまでの日本の大学入試であり大学教育でした。体制に合わせなければ生かしてもらえない。そういう教育で、不確実性の時代を生き延びていけるのか……。

和田:日本では入試の面接は教授がやるでしょう。でもアメリカでは、教授ではなくアドミッションオフィス(入学事務局)の担当者が面接するんです。それで、教授に逆らいそうな生徒を採る。

中野:そうなんですか。日本では、優秀な人を採るというよりも、教授の手足となって働けそうな人を採っていますね。

和田:医者の世界ではその悪弊が強くて、上が言ったことには逆らってはいけないんです。1980年代に近藤誠先生が乳がん治療において乳房温存療法を提唱したら、権威から大バッシングを受けました。でも今では、乳房温存療法は標準治療になっています。近藤先生を叩いた人たちが定年退職したから。

次のページ