定年後は職場での役割も変わる。自分の技術や知識を周りに伝えて、後進の指導役として期待されるケースは多いだろう。新しい職場のルールや仕事の進め方にも柔軟に対応し、年下の同僚や上司と良い関係を築く努力も怠らないようにしたい。

 新型コロナウイルスの影響で一気に浸透したオンライン会議やリモートオフィスなど、これからも新しいビジネスツールに対応する機会は増えるはずだ。

 そして何より大事なのは、毎日の健康管理。誰でも年をとれば体力は落ちる。

 転職や再就職では、面接や応募書類の準備もおろそかにできない。前出の中島さんによれば、シニアの転職では履歴書などに実務経験や肩書、キャリアなどを盛り込みすぎないように注意したいという。

「職務経歴を長く書きすぎたり、『何人マネジメントした』などと企業が求めていない実績をアピールしすぎたりすると、扱いにくい印象を持たれてしまうことがあります。自己主張がなさすぎても意欲が不足していると思われてしまいますが、希望する年収なども相場に合わせるようにしましょう」

 企業が何を求めているかを把握することが重要だ。そのためにも、業界や市場動向はしっかり押さえておきたい。

 こう書き連ねると、ものおじしてしまう人もいるかもしれない。だが、会社はシニアを大事な働き手として期待しているし、シニアも働く場を求めている。再雇用や転職がうまくいけば、双方ともにメリットがある。

 30年近く人事関連の業務に携わってきたJFEエンジニアリングの土屋浩志さんは「現役世代も定年後のシニアも、職業人としての『軸』と『志』を持つことが重要です」と強調する。

「自分にとって仕事をするうえでよって立つ軸は何か。プロフェッショナルとして核となるものはシニア世代になっても欠かせません。また、シニア世代になれば、自分のことよりも世のため、人のために働く志を持ちたいもの。定年後、出世や競争の呪縛から解放されれば、新しい働き方が見えてくる。そして新しい役割や能力を得れば、自分の“殻”を破れるはずです」

 70歳就業法は働き方を見直す大きなチャンス。「人生100年時代」を充実したものにしよう。(本誌・池田正史、浅井秀樹)

週刊朝日  2021年4月2日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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