希代のグルマン小泉武夫、「茹でるとなまらうまい!」ヤツを食す (1/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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希代のグルマン小泉武夫、「茹でるとなまらうまい!」ヤツを食す

集中連載・石狩川随想“味覚人飛行物体”がゆく(6)

小泉武夫週刊朝日
小泉武夫氏

小泉武夫氏

アメリカザリガニ。日本では用水路などにいてやや不衛生なイメージだが、アメリカや中国では人気食材

アメリカザリガニ。日本では用水路などにいてやや不衛生なイメージだが、アメリカや中国では人気食材

 発酵の摩訶不思議な世界に人生を捧げ、希代のグルマンとして世界中を旅してきた小泉武夫さん。定年後の第2ステージに選んだのは、北海道石狩市。連載6回目は、スジエビのほか、意外な存在が実は「茹でるとなまらうまい!」と判明!。それらを豪快に食べ尽くす、グルマンの姿が躍動する。

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 昔は大変な暴れ川であった石狩川は、河口付近の生振、花畔、篠路あたりの数箇所で大きく曲がって大雨のたびに川が氾濫した。そのため大正七年(一九一八)に生振捷水路の建設が始まり、昭和六年(一九三一)にそれが完成し、石狩川は真っ直ぐ流れる新しい水路に導かれた。

 するとそれまで曲がっていた川の部分は取り残されて、旧石狩川という名前になる。そこに水は流れ込まないので、陸封されて三日月湖となった。その湖を昔の地名をとって茨戸川と呼んでいる。石狩市、札幌市、当別町にまたがった湖で全長は約二〇キロメートルである。「茨戸」の語源はアイヌ語の「パラ・ト」(広い沼)よりきた。この茨戸川と呼ぶ湖にはワカサギ、ヘラブナ、チカ、カワガレイ、モクズ蟹など多くの魚介類がいて、周囲にはこれらを漁って生計を立てている漁師もいる。

 秋になると、三日月湖の辺りでひと月前まで咲いていたハマナスが真っ赤に染まった果実を付けるころ、湖上には真鴨や真雁が渡りの準備にやってくる。私がこの頃の三日月湖がとても好きなのは、親船研究室の近くに住む川漁師の愛称「トムさん」が、時々活きているザリガニとスジエビを研究室に届けてくれるからである。

「トムさん」の姓名は畑山勉さん六五歳で、名前の「つとむさん」が「トムさん」に愛称されたらしい。木製の一人乗りの小船に、キャリーハンドル付きのエンジンを固定したべか船を持っている。この人との出会いは、トムさんが朝、漁をして船着き場に戻ってくると、私は時々漁の成果を見に行って、そこで会話をしたのがきっかけであった。その後は道で会っても談笑する仲になっていた。いつも頭に手ぬぐいでねじりはちまきをし、吊りバンドの付いた防水ウェーダーを着装していて、川漁師そのもののトムさんなのである。

 この茨戸川、通称三日月湖ではスジエビがよく獲れるので、トムさんはこのエビの漁も得意としていた。スジエビは別称カワエビとも呼び、テナガエビ科に分類される体長四~五センチのエビである。脚が長く両方の鋏もヌマエビに比べて大きく、目は左右に突び出し、灰白色の半透明で、黒い横縞が体の各所に入っているためこの名がある。昼間は石の下や水草の茂みの中に潜んでいて、夜になると動き出す。


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