イ・ビョンホンもまた、こう称えた。

「クァク・ドウォンさんはテイクごとに違った演技を見せる変奏の魔法使い。撮影中、気持ちのいい緊張感を感じた。直球でくるか、変化球でくるかわからないので、瞬発力がなければ打ち返せない俳優だった。ここで爆発するだろうと予想したところでむしろ落ち着いて演じ、予想しないところで爆発する俳優なので、常に緊張していなければいけない」

 その緊張感は映画のだいご味となった。

 印象に残る場面としては、主人公がパク大統領(イ・ソンミン)とマクサ(マッコリとサイダーを混ぜたもの)を飲みながら語り合う場面を挙げた。

「マクサのシーンは、とても悲しく感じられた。当初のシナリオにはなかったシーンだが、いろんな人の話を聞いて、監督と熟慮した結果、入れることになったシーン」

 日本語でパク大統領が「あの頃は良かった」と言い、キム・ギュピョンがそれを受けて「あの頃は良かったです」と日本語で返す。

「短いセリフだが、二人の互いのヒストリーや関係、いろんな思いが伝わるシーンだったと思う。具体的な思いというよりも、二人の共有する過去についての様々な感情が混ざったものだった」

 パク大統領に対する憎しみだけでない複雑な感情があったからこそ「悲しく感じられた」のだろう。

「南山の部長たち」は今年のアカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表に選ばれ、国際的にも注目を集めている。

 選出されたことについて「まずは映画を評価してくださった方々に感謝の気持ちを述べたい」と言う。

 韓国の人なら誰もが知っている事件についてこう話す。

「どこの国でも、政治的な陰謀や権力争いによって起きた悲劇というのはあるので、理解は難しくないと思う。韓国特有の状況という点で、また違った見ごたえもあるはず。映画の色、どういうジャンルかといえば、歴史を扱ったものなのでドキュメンタリーのような映画と思われるかもしれないが、監督がこの映画を作る前に最初に話していたのはノワールの形式の映画にしたいということだった。その点は私がこの映画の出演を決める上でも大きく作用した。特にノワールを好きな方々にとっておもしろい映画だろうと思う」

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