「普段は非常に穏やかな人物だが、ある瞬間、爆発的に怒りをあらわにする性格だったことを資料や周りの人たちの話から知った。それをどう表現するかが、俳優としての私の宿題だった」

 原作者・金忠植氏も、「金載圭が憤怒調節障害があったことは暗殺の重要な要因の一つ」と話していた。難しいからこそ、演じ甲斐もあったようだ。

「一方でそういう部分を演じる時に感じるカタルシスもある。怒りを表面的には見せなくとも、感じさせることはできると思って演じた」

 イ・ビョンホンは、現場で積極的にアイデアを出すことでも知られる。例えば、「南山の部長たち」と同じウ・ミンホ監督の作品「インサイダーズ/内部者たち」(韓国で2015年に公開)で主人公のチンピラ、アン・サング役を演じ、「さすがイ・ビョンホン!」と観客をうならせたことがあった。

「インサイダーズ」の中での「モヒートに行ってモルディブ飲もうぜ」という、モヒートとモルディブを入れ替えた名台詞は、イ・ビョンホンのアドリブだったという。アン・サングの破天荒でちょっとまぬけなキャラクターにぴったりで、韓国では流行語となった。

 この映画は「青少年観覧不可」の制限を受けたが、観客数700万人を超える大ヒットとなったのは、イ・ビョンホンの名演によるところが大きく、この役で韓国で最も権威ある映画賞「青龍映画賞」主演男優賞を受賞した。

 だが、イ・ビョンホンは今回の「南山の部長たち」は「慎重に演じた」と振り返った。

「自分勝手に解釈して歴史や人物を歪曲してしまうことのないよう、実在の人物を演じる時にはいつも感じる難しさがある。私が自由に創作して何かアイデアを出したり、キャラクターに新たな魂を吹き込むようなことでなく、実在の人物からはみ出さないようにしながら、彼の深い感情や心の状態はどのようなものだったかを考え、演じるのが大変だった」

 タイトルが「部長たち」となっているのは、イ・ビョンホン演じる主人公以外に、元KCIA部長パク・ヨンガク(クァク・ドウォン)が重要な役で登場するからだ。モデルとなったのは、金炯旭(キムヒョンウク)。亡命先の米国で朴大統領の不正を暴き、その後パリで失踪した。映画の中では、キム・ギュピョンは元友人で裏切り者のパク・ヨンガクと対立する。クァク・ドウォンは共演したイ・ビョンホンについて「周りの空気まで演じる俳優」と絶賛していた。

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