作家・室井佑月氏は、内閣府が公表した2021年度の経済成長率について疑問を呈する。
* * *
去年から心に引っかかっているニュースがある。それは12月18日付のBloomberg(ブルームバーグ)の「21年度実質GDP4%増、コロナ前水準に経済回復見込む─政府見通し」という記事。
「内閣府が18日公表した政府経済見通しによれば、2021年度の成長率は従来試算から上振れる。追加経済対策による押し上げ効果により、日本経済は新型コロナウイルス感染拡大前の水準に回復する。見通しによると、21年度の実質国内総生産(GDP)は前年比4.0%増と、7月の年央試算の3.4%増から上方修正された。名目GDPは4.4%増の559.5兆円程度と、19年度実績559.7兆円と同水準への回復を見込む」
この記事を読んだとき、嘘(うそ)でしょと思って、わざわざ「内閣府」のホームページを見にいったら、「経済見通しと経済財政運営の基本的態度閣議了解(令和2年12月18日)」にほんとうに書かれていた。
マジで、今の日本政府はとんでもなく信用できない。
まさかまだ東京五輪招致前後にさんざんテレビに報じさせた、経済効果ってやつを加算して、はじき出した数字じゃないよな?
東京五輪はコロナ禍によって、観客を減らさなきゃならなくなったり、無観客にせねばならなくなったり、場合によっては中止になることだって考えられる。コンパクト五輪といいながら、膨らみに膨らんだ開催費1兆6440億円や、感染拡大防止対策として新たに注ぎ込まれるだろう金額を、きちんと引き算しているのか、怪しいったらない。
ちなみに、20年度の実質GDPは4.5%減から5.2%減に下方修正したらしい。結局、戦後最大のマイナス成長だって。
だいたいさ、去年、解雇や雇い止めにあった方は、7万9608人もいるんだよ。そのくらい企業も大変だってことでしょう? びっくりするような大企業も倒産したしさ。なのに、年が変わったらGDPが4%も上向くって、いくら経済対策に追加で予算をつけたからって、嘘くさいったらありゃしない。当たり前のことだが、去年と今年はつながっている。聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるレベル。
あたしたちに嘘をつくことに対し、政府はもうためらいがない。
前首相は国会で嘘を堂々とつき、その責任を取らずに痛感したというだけで済ませてしまう。現首相は、あたしたちの健康や命よりも、自分の利権や選挙のことが大事みたいで、それを隠すために毎回読み上げるだけの官僚の作文は、聞いてても嘘臭さしか感じない。
この人たちの嘘に慣れてはいけない。あたしたちに嘘をつく理由は、あたしたちをむげに扱うためである。
室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中
※週刊朝日 2021年1月22日号