※写真はイメージです (c)朝日新聞社
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 緊急事態宣言は経済活動を萎縮させる「諸刃(もろは)の剣」だ。その影響はどれくらいなのか。

 今回の宣言は首都圏の1都3県を対象に1カ月、午後8時以降の外出自粛や飲食店などの営業時間短縮を要請するのが柱。 特に飲食店は夜の営業がほぼできなくなる。ホットペッパーグルメ外食総研によると、昨年の緊急事態宣言で首都圏の外食市場規模は4、5月に前年同月比で8割も急落。一方、持ち帰りやデリバリー食品は急伸した。稲垣昌宏上席研究員は「テイクアウトやデリバリーに参入する飲食店が増えた」と指摘し、今後も一定のニーズに対応していくとみる。

「廃業に向かうところがさらに出てくる」と話すのは東京商工リサーチの原田三寛・情報部長。同社の昨年12月のアンケートで「コロナ禍の収束が長引けば廃業検討の可能性があるか」と聞くと、飲食店は33%、宿泊業24%、道路旅客運送業22%などが「ある」と回答した。

「特に、飲食店は忘年会・新年会のかき入れどきに満足に営業できず、今までの損害を取り返し今後につなげる道を断たれてしまいました」(原田氏)

 影響は飲食店にとどまらない。原田氏によると、貸しおしぼりや酒、食品などを店に提供する卸売業者も大変だという。

「飲食店には支援の手当が出ても、サプライチェーンにつながる業者は対象でないので、影響はより深刻です」(同)

 経済への影響額は全体でどれぐらいになるのか。三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「1兆1千億円から1兆2千億円くらい」とみる。今年の実質GDP(国内総生産)2.8%成長の予想に対し、宣言は0.2ポイント程度押し下げる。一方、「株価が大きく下がることはない」という。昨年の宣言と比べると地域が限定されたマイルドな内容であることに加え、緩和的な金融・財政政策も継続されるためだ。

 宣言が長期化すると、影響はさらに深刻になる。環境衛生学の西浦博・京都大学教授は東京で感染を十分に沈静化させるのに2カ月以上かかるシミュレーションを示しており、長期化は絵空事ではない。

 第一生命経済研究所の野英生・首席エコノミストによれば、宣言が50日間に長引き、余波が12日間続くと実質家計最終消費が2兆1千億円落ち込み、実質GDPは2兆8千億円減少するとみる。経済規模が全国の約3分の1を占める1都3県のダメージが地方に波及し、日本全体での内需の落ち込みは5兆6千億円にも上ると試算する。

「人の接触を避ける施策を厳しくすると、地方に波及する影響も大きい。一方、緩い規制にすると感染が収まらず、長期化するジレンマがある。実効性ある感染対策を期間内にできるのかがポイントです」(熊野氏)

(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2021年1月22日号