シャツを脱ぎ、鋏でボタンを切りとった。襟と袖口をとり、あとを適当に切り分けてウエス(使い捨てのぼろ布)にする。しかるのち、コーヒーを淹れてふたつのカップに注ぎ、盆にのせて麻雀部屋に行った。ルーティンのふたり麻雀だ。CDデッキに『ピンク・フロイド』をセットし、葉巻に火をつけて、いざ開戦。起家はよめはんになった。
半荘四回戦の二戦目で、荘家のよめはんがリーチをかけ、四暗刻をツモりあがった。わたしは飛び、役満賞のチップ十枚を払う(なぜかしらん、よめはんは四暗刻が得意で月に二、三回はアガる)。
三戦目あたりで、わたしは気づいた。
「ハニャコちゃん、おれ、寒い」「あたりまえでしょ。Tシャツ一枚やんか」「それを知ってるんやったら、いうてくれよな」「このおじいさんは寒いも暑いも分からんようになったみたいやね」
よめはんは厚いセーターにカーディガンをはおっている。
四暗刻と寒さに攻められて麻雀は大敗した。葉巻十本分ほどの小遣いを召しあげられて、すごすごと仕事部屋にあがる。オカメインコのマキが飛んできて肩にとまり、チュンチュクチュン・オウ──と鳴いた。
「マキ、おれはカチカチ山のタヌキになりかけた」
部屋の隅に積みあがっている服の山からセーターを引きずり出して着た。パソコンを立ち上げてメールをチェックする。
コロナ禍の中、ほとんど外出できず、こんな日々を送りつつ、2020年は終わった。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2021年1月15日号