斎藤:個人は、グローバル資本主義のもとで経済活動を担う“歯車”になってしまった。

内田:中間共同体の解体は私たち自身が選んだことです。地縁や血縁に縛られたくない、自分の思い通り自由に生きたいという人びとの要請に従って、親族共同体も地域社会も終身雇用の企業もなくなった。でも、そういうものを全部壊してしまったら、今度は守ってくれるものが何もない裸の個人が国家権力や大企業と向き合うことになった。

斎藤:それはまさに、カール・マルクスが言っていたことです。資本主義が発展し、人びとが共同管理していた「コモン(共有財)」や「アソシエーション(共同)」が解体され、多くの人の暮らしはむしろ悪化しました。
 
「コモン」とは、あらゆる人々が必要としているもの、たとえば水や電力や教育・医療などのことですが、それをみんなで民主的に管理することで、かえって人々は豊かになる。格差や生きづらさを生む資本主義から脱出して、豊かな人間らしい生活が可能になるはずです。

内田:もう一度身近なところから中間共同体を再構築してゆかなければ生きづらさは解消しないと思います。「コモンの再生」という言葉に託しているのはそういうことです。

斎藤:地縁や血縁がなぜつらいかといえば、それは「選べない」からなんですよね。どうしても共同体が閉鎖的になり、抑圧性や排他性を持つ。だからこそ、排他的・抑圧的ではない中間共同体が必要。コモンを21世紀版にアップデートしなければなりません。

内田:世界の成り立ちについての情報も公共財でなければならないと思います。世界について教えるほんとうに重要なアイディアはアクセスフリーでなければならない。私自身はネット上で公開しているテクストはすべてコピーフリーです。私のアイディアを誰かが自分のものとして発表してもらっても全然構わない。大事なのは情報が共有されることなんですから。

斎藤:知識以外にも、公園や図書館、市民電力、共同農地やカー・シェアリングなどいろいろなものをシェアする文化を取り戻す必要があると思います。

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2021年に必要なのは「距離を取ること」