内田樹氏と斎藤幸平氏(c)朝日新聞社
内田樹氏と斎藤幸平氏(c)朝日新聞社

「人新世(ひとしんせい)」という言葉が注目されている。地球が新たな時代に入ったことを意味するもので、環境危機と人類の文明をとらえ直すなかで広く議論が起きている。関連の著書もある気鋭のマルクス研究者、斎藤幸平氏は「新型コロナウイルスも人新世時代の問題のひとつにすぎない」と指摘する。思想家の内田樹氏とともに、人新世時代の日本と世界を語り合った。

>>前編:斎藤幸平「私たちはコロナ後、元の生活に戻ってはならない」“人新世”とは何か?

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内田樹氏:『人新世の「資本論」』(集英社新書)をはじめ、斎藤さんの著書で「そうそう」と膝を打って同意したところに全部付箋を貼ったら、マーカーとして無意味になるくらいにたくさん貼ってしまいました。この1年、パンデミックによって今の文明社会の脆弱性は誰の眼にも明らかになったなかで非常にタイムリーな警鐘の書だと思います。

斎藤幸平氏:先進国は資本主義の負の部分を途上国に押しつけてきましたが、いよいよ「気候変動」や「パンデミック」という形のしっぺ返しが来るようになったのです。地球上のどこにいても気候変動やパンデミックの影響から逃れられない。それが人新世です。

内田:ええ、新型コロナも文明と自然の関係の歪みの現れです。人間と野生動物を隔てる距離が失われたことから生まれたわけですから。

斎藤:そうさせたのが、利潤を第一に考える資本主義です。

内田:感染症防止の原理だけ考えれば、それはシンプルなんですけどね。感染経路を遮断すること、それだけです。マスクも、ソーシャル・ディスタンシングも、ロックダウンも、すべて「距離をとる」こと。適切な距離をとることの大切さを今回のコロナ禍は教えてくれたと思います。

斎藤:その一方で、これまで日本人が「見ようとしなかったもの」について、もっと距離を近づけて考える必要も明らかになっています。私たちの資本主義の犠牲になっている「グローバルサウス(南半球の発展途上国)」に住む人は、日本に商品を輸出するためにどんな“ゆがみ”を引き受けているのか。国内でも、医療従事者や流通関係者など「エッセンシャルワーカー」に負担を押しつけていることが再認識されました。

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