「お待たせしました、セリ鍋です」。ドーンッ!!

 テーブルが草の山。THE・植物。驚いたのは根っこが山盛り。完全に根。「……これ食べられるんですか?」。失礼を承知で店員さんに聞くと、満面の笑みで「さっと火を通してお召し上がりください」。どこから来るんだ、その自信は? だって草じゃないか。

 鴨肉を先に入れ、煮えたところでメインのセリ投入。葉の部分を言われた通りにしゃぶしゃぶして口へ。「モシャモシャ……」。うめぇ。根もいってみた。「モリモリ……」。なんだ、この根っこ。うめぇぞ。なんて香り高き草と根。あっという間になくなっちゃったので「草と根っこ、おかわり出来ますか?」「セリですね……」。失礼。うまかったです、草……いや、セリ。

 ホントはブタぶち込んでもらいたかったけど、この冬一番美味しかった。『美味しんぼ』も連載休止中なので雄山や士郎が蘊蓄(うんちく)垂れることもないだろう。来年もこの時期に草、いやセリを食べたい。いいね、草……いや、セリ鍋!

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります

週刊朝日  2021年1月1‐8日合併号

著者プロフィールを見る
春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

春風亭一之輔の記事一覧はこちら