美術家の横尾忠則さんがかつて飼っていた猫「タマ」との思い出を寄稿してくれた。
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「タマ」なんてありふれた名前だけど、裏庭から這入って来て間もなくした頃、お腹が大きくなった。まるで卵が入っているように。だから「タマゴ」と名付けたら、しばらくして分ったのはわが家で食べ過ぎた結果だったので「ゴ」を切り捨てて「タマ」にした。15年というさほど長くない年月だったが、タマはわが家の一員として共生することになった。タマは猫のぬいぐるみを着た人間だった。言葉は通じないが、彼女の読心術で飼い主の心は全て読みつくされていた。アトリエに向う時は必ず門まで見送ってくれたし、帰宅を察知して、玄関で迎え入れてくれた。旅行に行く時などは玄関まで見送るが、さっと振り返って家の奥に消えた。タマの取材のカメラマンが来ると、家のどこかに隠れて出て来なかったので、タマが雑誌に登場したことはなかった。
タマが死んでからは、何日も夢に出て来た。タマのわが家に来る前のことを知りたくて何日も念じて眠った。すると、長々と夢で、語った。その内容は『タマ、帰っておいで』というタマの画集に記載した。読んでみて下さい。また別の夢で、「神様に生前住んでいた同じ家を作ってもらって、そこで住んでいる」とも言った。(寄稿)
※週刊朝日 2020年12月18日号