“愉快なおもちゃ箱”にしようということで、ボックスの至るところに、ユカイさんの子供たちが描いた絵が用いられている。ボックスを手に、「ユカイファミリーの初コラボです」と満面の笑み。ちょっと親バカな一面を覗かせる。

「俺は無精子症だったんですが、無精子症でも、体外受精をすれば子供ができるとわかってから、不妊治療をして、幸運にも3人の子供を授かりました。そこから、自分の作る歌は大きく変わった。それまでは、“ぶち壊せ”がテーマだったのが、その反対になったというのかな。“エロス”、つまり性愛を表現していたのが、同じ愛でも、“アガペー”という慈愛に変わっていった。単純に、大人になったってことなのかもしれないですけどね。昔は、何事にも無責任だったのが、子供を授かって、自分にも責任感があるんだな、って知ったり」

 もう一つ悟ったのが親心。

「両親はもう2人とも天国にいっちゃいましたけど、子供と触れ合いながら、『ああ、こういう思いで育ててくれたんだな』なんて思う。ただ、自分が親と違うところは、子供たちには、将来何になるかは自分で決めてほしい。親が決めた道を選ぶ人は、うまくいかなかったとき、親を恨む。でも自分で決めたことなら、どんなことがあっても楽しめると思うから」

 母親の遺品を整理していたとき、大量のコンサートチケットが出てきた。券面には、「RED WARRIORS 渋谷公会堂」の文字が躍っている。

「大量に買って、親戚に配ったりしてたんだよね。親戚も年寄りなんで、渋谷公会堂に死んだ親父の兄弟が来たとき、あとで楽屋で、『音がでかくて、耳が聞こえないぞ、どうしてくれるんだ!』って文句言ってた(笑)」

 ユカイさんが断捨離をしたとき、子供たちが描いた「パパ大好き」という絵は、どうしても捨てられなかった。

「どう考えてもゴミだよなって思うけど、見ちゃうと捨てられなくなっちゃう。だって、そのときは真剣に描いているからね。そういえば、お袋の遺品の中に、俺が描いたゴミ屑も残ってた。それを見返していたとは思えないけど、親心として、捨てられなかったってことですかね」

(菊地陽子 構成/長沢明)

ダイアモンド☆ユカイ/1962年生まれ。東京都出身。ロック・ボーカリスト。86年、RED WARRIORSのボーカリストとしてデビュー。89年にバンド解散。90年、「DIRTY HERO」でソロデビュー。96年には、「トイ・ストーリー」の日本語版主題歌「君はともだち」を歌い幅広い層から注目を集める。映画、舞台などで役者としても活躍。自著に自身の不妊治療についてユーモラスに綴ったエッセイ『タネナシ。』などがある。

週刊朝日  2020年12月4日号より抜粋