「今思えば、仕事は辞めないほうが良かったと思います。最初に介護について調べて要介護申請していれば、離職は避けられたかもしれない」

 介護で破綻しないためにはどうしたらいいのか。

「介護離職は絶対にしてはダメです。それは貧乏への入り口です」

 そう話すのは経済ジャーナリストの酒井富士子さん。介護離職を避けるために、介護休業や介護休暇など、まずは職場で利用できる制度を積極的に使うべきだ、と話す。

 その上でかかる費用について、こう助言する。

「在宅の間は親の年金の範囲内で何とかできるかもしれませんが、施設に入ればそうもいかない。そうなったときに大事なのは、親の貯金から使うこと。決して子どもが立て替えないことです。親の貯金がなくなったら親の家を売却すればいいんです。『家に戻ってくるかも』なんて考える必要はないです」

 前出の高野さんは、親を送った後にホームレスになってしまった。

「介護離職後に、賃貸暮らしで家賃が払えないほどに困窮した場合、『住居確保給付金』の申請をするという手もあります」(酒井さん)

 国による住宅扶助のようなもので、市区町村ごとに定められた額を上限に実際の家賃を原則3カ月支給する。

 再就職に向けては、

「ハローワークの『ハロートレーニング』(離職者らを対象とした職業訓練など)を受けるのも良いと思います。一緒に学ぶ仲間もできますし、生活にリズムと張りも出て、社会復帰への気持ちが高まると思います。受講料は無料です」(同)

 NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」理事長の大西連さんは、

「家族の問題は、感情がすごく入ってしまい、合理的に判断できない難しさがある」

 と分析し、指摘する。

「たとえば仕事を辞めて親の年金だけで介護すると考えたら、もしも10年とか介護生活が続いたら貯金も底をついて『共倒れになる』と第三者はわかる。でも、当事者は、家族を捨てたと思われたくない、といった感情が入ったり、これまでの人間関係を考えたりで、客観的に見たら明らかに非合理的な選択をする人が多くなるんです。仕事を辞める前にいったん冷静になって考えてほしい」

 介護離職して経済的に困窮し、社会との接点も失われ、追いつめられる──。親の介護で自分の人生が後ろ向きになるようなことは避けたいところだ。(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2020年11月27日号より抜粋