しいたけ.:運が強い人って、自分のことが好きな人がわかる人、自分が苦手なことをやってくれる人を見つけるのがうまい人なんだろうなと思いました。つまり愛される人なのかな。言葉にすると当たり前になってしまうのですが、ここで見捨てちゃいけないと思われる人というか。

池谷:ああ、それはありますよね。

しいたけ.:でも、そう思われるというのは、自分のエゴで動くのではなく、利他的な人なんだと思います。今回、池谷さんが出された『脳はすこぶる快楽主義』に書いてありましたが、サケは3千個のイクラを産むのに、成魚になって子孫を残せるのは、そのうちのおよそ2匹だけ。じゃあなぜ3千個も産むかというと、他の種を栄えさせるためなんだと。めぐりめぐって、自分の繁栄に戻ってくるわけですが、生き残るということは、結局、他の人たちを栄えさせることなのかと感動したんです。

池谷:ありがとうございます。今のオーディションの話でちょっと思い出したのですが、アメリカの陸軍士官学校に入った新入生に「なぜ陸軍を目指すのか」を聞いたアンケートがあるんです。その志望動機は、大きく二つに分けられる。一つは「国のために」とか「愛する家族を守るために」という代替動機。もう一つは「陸軍っておもしろそうだから」というような内発的動機。で、誰が成績が良くて、誰がドロップアウトして、誰が陸軍に入った後に昇級していくかを調べると、代替動機の人は成績が悪い。結局、好きだというのが一番重要なんです。

しいたけ.:ああ~、やっぱりそうなんですね。

池谷:でもね、就職の面接では必ず「どうしてわが社を選んだんですか」と聞かれるわけです。そのときの答えって、代替動機でしかない。「好きだからです。それだけです」と言ったら、おそらく落とされる。

しいたけ.:残念ながらそうでしょうね。

池谷:学生が言うには、この代替動機を言えば言うほど、内定をもらう確率が高くなるそうです。どこの企業も、口がうまい人、人付き合いがうまそうに見える人を採用するんでしょうね。でも、このコロナ禍で少し変わってきていませんか?

※【「コミュ力=人の価値」がコロナで変わる? 脳研究者が語る刺激過剰な社会】へ続く

(構成・大川恵実)

東大薬学部教授・池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探究している。本誌連載「パテカトルの万脳薬」をまとめた『脳はなにげに不公平』(朝日文庫)も発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞。

しいたけ./占い師、作家。早稲田大学大学院政治学研究科修了。ウェブ「VOGUE GIRL」で「しいたけ占い」、雑誌「AERA」で「午後3時のしいたけ.相談室」を連載中。

週刊朝日  2020年11月6日号より抜粋