「SDGsは問題先送りのアリバイづくり」 売れてる本『人新世「資本論」』の主張 
「SDGsは問題先送りのアリバイづくり」 売れてる本『人新世「資本論」』の主張 

 ライター・永江朗氏による「ベスト・レコメンド」。今回は哲学者である斎藤幸平さんの書いた『人新世(ひとしんせい)の「資本論」』(集英社新書/1020円・税抜き)について。

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 今年の夏も暑かった。熱中症でたくさんの人が死んだ。クーラーなしでは生きられないなんて、異常なことだ。人類が地球に住めなくなる日は、そう遠いことではないと思う。

 斎藤幸平『人新世の「資本論」』が売れている理由は、気候変動への危機感を持つ人が多いからだろう。著者は最年少でドイッチャー記念賞を受賞するなど、世界でも注目される気鋭の哲学者。「人新世」とは、地質学的に見て、人類の活動の痕跡が地球の表面を覆い尽くした年代という意味の言葉だ。

 斎藤の主張はシンプルだ。経済成長はやめよう、資本主義を捨てよう。経済成長を続ければ自然破壊と気候変動が進み、人類は滅亡してしまうから。いま流行の「SDGs(持続可能な開発目標)」なんて、問題先送りのためのアリバイづくりでしかない。エコバッグもマイボトルも、“やってる感”を演出するだけ。

 これまでも脱成長論はあった。でもそれは資本主義の枠の中で考えていたからダメなんだ、と斎藤はいう。じゃあ、資本主義を捨ててどうするか。<コモン>である。自由で平等で公正な社会。もの・ことを独占するのではなく、共有する社会。

 アイデアの源泉はマルクスと聞いて、「なにをいまさら」と呆れたり笑ったりする人もいるだろう。だが、斎藤のいうマルクスとぼくたちが知っているマルクスは違う。いま『資本論』以降の晩期マルクス研究が国際的に進んでいて、晩年のマルクスが進歩史観からエコロジーへと大転換をはかっていたことがわかった。資本主義にしがみついて滅亡を選ぶか、資本主義を捨てて<コモン>を選ぶか。ぼくたちは決断を迫られている。

週刊朝日  2020年10月23日号