ごみ屋敷のごみを行政に撤去された住人が、烈火のごとく怒りだすニュース映像を見かける。本人にとって安定した状態を遮断されるわけだ。

「認知症の場合は、薬の処方で常同行動はおさまります。腕力や強制力で本人を追い詰めないで、専門家に任せてほしい」(奥村院長)

 ためこみ症の専門機関は少ないが、本人が改善を希望するならば、認知行動療法も有効だ。

 不安をなくすのではなく、コントロールするのだ。たとえば、「これがなくても大丈夫」という体験を理解してもらうために、処分候補の品を家族や協力者に1日預かってもらう方法もある。

 本人に、「これがなくてはダメ」との感情が湧き上がってきたら、記録して心を静めるようにする。

 1時間、2時間と記録の間隔を延ばす。預かってもらっても、「最悪なことは起きない」と理解してもらうよう努力する。

 やりがちなのが、本人の不在時に家族が処分するパターンだ。

「100%トラブルになるうえ、本人は深く傷つきます。絶対にやめてほしい。『だらしがない』『離婚する』と脅しても効果はありません。直してほしいのは、『ためこみの状態』であって、『本人の性格』ではないはず」(五十嵐教授)

 引っ越しも効果はあまりない。

 そもそも、断捨離などできないから、大量の荷物をつめた段ボールが新居に高く積まれるだけだ。

 断捨離と終活ブームはまだまだ続くが、高齢者の場合、なかなかハードルが高い。

 近畿地方に住む70代の夫婦は、ミニマリストに影響された40代の娘から、「だらしがない、と家じゅうの断捨離を強制され、包丁やごみ箱まで捨てられた」と嘆く。

「高齢者は、片づけ=死ぬことと考えている方もいます。アルバムや思い出の品などを処分することは、自分の死を意味してしまう」(同)

 娘や息子など家族が、高齢の母親や父親に寄り添いながら、「保管」の意味を改めて考えるのもいい。

・「もったいない」→「処分はよくないことなのだろうか?」
・「自分の人生や一部を失う感じがする」→「楽しかった思い出もなくなるのだろうか?」

 その人の中にある「不安」と向き合い、あせらずに一緒に考え、対処していく方法をじっくりと探すべきだろう。(本誌・永井貴子)

週刊朝日  2020年9月18日号より抜粋