それは、運動不足の中高年が一念発起し、いきなりジムでベンチプレスをしたり、ヨガでポーズをとったりしたときに「ピキッ」とくる、あの肩痛だ。菅谷医師によると、この原因は「体の硬さ」にある。

「実は、腕を動かすときには、肩関節だけでなく、肩甲骨や肋骨(ろっこつ)の関節、胸骨などの関節も一緒に動いています。ところが、加齢や運動不足の影響でこれらの関節が硬く、動きにくくなってくると、肩の関節だけで腕を動かさなければならなくなります」(菅谷医師)

 その結果、無理な体位をとったり、負荷をかけたりすると肩関節にかかるストレスが大きくなり、腱が切れるなどして痛みが出るというわけだ。

 こうした肩痛では、肩関節だけ治してもダメで、肩甲骨や肋骨にある関節に柔軟性をもたせる根本的な改善が必要。菅谷医師は「理学療法士やトレーナーによるリハビリが有効です」と話す。

「習ったリハビリは、自宅で実践することが大事。ホームエクササイズを続けていけば、肩や背中まわりの関節が柔らかくなるので、肩関節にかかるストレスを減らしながら腕を動かせるようになります。正しい体の使い方ができるようになれば、ジムやヨガでのケガの予防にもなります」(同)

 他にも、五十肩に似た肩トラブルでは、石灰沈着性腱板炎やインピンジメント症候群、腱板断裂などが挙げられる。これらも基本的にはリハビリが有効で、強い痛みがあるときは、肩関節にステロイドを注射する。手術が必要になるのは、全体の2割程度だという。

 手術は、肩の周囲を2、3カ所切開し、関節鏡という内視鏡を挿入して行う手法が主流。傷が小さくてすむため、正常な組織を傷つけにくく、手術後の痛みが少ないのがメリットだ。また、生理食塩水を流しながら手術をするので、感染のリスクも減らせる。

 肩関節の病気の診断や手術はむずかしく、経験と技術が要求される。肩や肘を専門にしている整形外科医を受診するのが望ましい。

「問診と触診などの診察と画像診断で正しい診断をしてくれる医師のもとで、その診断のもとにリハビリなのか、手術なのか治療方針を決めてもらうこと。これが、肩トラブルを改善するための近道です」(同)

(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2020年9月18日号より抜粋