ジャーナリストの田原総一朗氏(c)朝日新聞社
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イラスト/ウノ・カマキリ
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 辞任を表明したが、史上最長の政権を担った安倍晋三首相。その功罪について、ジャーナリストの田原総一朗氏が考察した。安倍首相のレガシーは何なのか。

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 実は8月27日に菅義偉官房長官と二階俊博幹事長に会って話した。2人とも「安倍総理は続投だ」と言い、続投ならばということで、安倍首相がやるべきこととして私が考えていることを伝えた。

 そして、翌日の辞任会見である。非常に驚いたが、私は辞任会見はいいことだと思った。第1次安倍内閣では「投げ出し首相」だった。今回は1時間の記者会見をし、体調が悪いことを伝えて辞任を表明したからである。

 ただし、難しい問題はいっぱいある。各紙の世論調査で、安倍内閣の新型コロナ対策はいずれも60~70%の国民が失敗だと見ている。うまくいっていない。一体どうすべきなのかという大問題が残されたままの辞任である。

 安倍政権は史上最長の政権になったが、一体何をやったのか。たとえば、池田勇人内閣は高度経済成長、佐藤栄作内閣は沖縄返還、中曽根康弘内閣は国鉄・日本電信電話公社・日本専売公社3社の民営化、小泉純一郎内閣は道路公団・日本郵政公社の民営化。安倍首相のレガシーは何なのか。

 世論には相当反発されたが、私は一番のレガシーは安保法制の改正だと思う。集団的自衛権の行使容認だ。

 米ソ冷戦が終わった時に、岡崎久彦氏、北岡伸一氏ら、外交専門家や保守系の学者たちが日米安保条約について強い危機感を打ち出した。東西冷戦下で、日本は西側の極東部門である。だから冷戦時代、米国は日本を守る責任があった。それが、冷戦が終わってソ連が敵ではなくなり、米国は西側の極東部門を守る必要がなくなった。

 米国はこのままでは日米同盟を持続できないと強く言ってきた。日米安保条約を今までの片務性から双務性にしなくてはならない。安倍内閣に安保法制改正、つまり集団的自衛権の行使を認めさせるという動きになったのである。反発は多いが、これが安倍首相のレガシーだと思う。

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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