「在宅勤務が増えたことで一律の通勤手当をやめて、出社した日だけ交通費を個別に精算するようにした企業があります。夜の会食についても3密を避ける観点から、これまで以上に制限するところもあります。コロナ禍で経費精算のチェックは厳しくなっていくと思います」(朝賀社長)

「機械学習」など様々な技術をベースにしたAIによって、大量のデータをチェックすればするほど、不正が見つかる精度が上がっていくという。

 細かなノウハウは公表できないが、ミレトスは「人間の目でチェックするよりも精度は高い」と自信を示す。

「判断に使うデータや分析対象にもよりますが、AIが学習していけば100%近く不正を見抜けるケースもあります。人間で同じことをやろうとすると大人数が必要で時間もかかる。コロナ禍でオフィスでの精算作業を減らしたい企業に注目されていて、すでに10社ぐらいで導入されています」(同)

 サービス内容は企業ごとに異なるため、利用料金は月当たり数十万~数百万円と幅広い。主な顧客は、経費精算の件数が多く、コンプライアンス(法令や社会規範の順守)を重視している大企業だ。企業にとっては、自動化で経費精算における申請や承認、経理処理などの作業を減らせるメリットがある。

 朝賀社長はこう続ける。

「経費のチェックをきっかけに、会社の業務を全体的にデジタル化していくことができます。ITなどのデジタル技術を使って業務を改善するDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んで、将来的にはタクシーに乗れば自動的に経費精算ができてしまうことも可能になります。AIでビジネスを変革していきたい」

 大手IT会社なども、DX分野でのサービスの開発を進めている。コールセンターの受け答えやパソコンの入力作業を自動化したり、取引先との入出金の管理や経理業務をデジタル化したりといったサービスだ。AIは技術開発のスピードが早く、ここ数年で急速に広まる可能性もある。スマートフォンの位置情報などを組み合わせることで、チェックはより厳密になりそうだ。

 個人情報の保護やプライバシーへの配慮が課題となるものの、仕事や暮らしのデジタル化は進む。経費精算の効率化で逆に、これまで認められにくかった在宅勤務での費用を請求しやすくなるかもしれない。不正が自動的に見抜かれるのは、なんだか息苦しい感じもするが、プラス面もあるのだ。

「昔はこの領収書は落ちたのに……」と嘆いても始まらない。AIの目が張りめぐらされた社会でどう生きていくのか。ビジネスパーソンに限らず、生活者すべてに突きつけられたテーマだ。(多田敏男、本誌・池田正史)

※週刊朝日オンライン限定記事

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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