九回裏2死一、二塁、新沢の逆点サヨナラ三塁打で試合を決め、喜ぶ明徳義塾の選手たち(撮影/写真部・松永卓也)
九回裏2死一、二塁、新沢の逆点サヨナラ三塁打で試合を決め、喜ぶ明徳義塾の選手たち(撮影/写真部・松永卓也)

 8月10日に阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開幕した2020年甲子園高校野球交流試合(日本高校野球連盟主催、朝日新聞社、毎日新聞社後援、阪神甲子園球場特別協力)。野球部員や保護者などを除き原則無観客の中、春の選抜大会の出場32校がそれぞれ1試合ずつを行うという異例の大会の初日、第2試合の鳥取城北(鳥取)対明徳義塾(高知)は、劇的なサヨナラ打で幕を閉じた。

「甲子園には魔物がいるっていうのは本当なんだと思いました」

 敗れた鳥取城北の3年・河西威飛(いぶき)はそう言いながらも、試合後の取材ではさわやかな笑顔を見せた。

 新型コロナウイルスの影響で春夏ともに甲子園が中止になり、「ガクッときた」と河西は振り返る。だからこそ、甲子園球場に立てる喜びが上回った。

「負けたのは悔しい。けど、すごく楽しくて。甲子園でプレーできること自体がうれしかった」

 試合では見せ場も作った。初回、安打で出塁した先頭打者・畑中未来翔(みくと)を3番・河西、4番・吉田貫汰の連打で返して先制。その後、五回に勝ち越しを許すが1点差のまま終盤へ。

 八回。明徳義塾の先発・新地智也のテンポの良い投球の前に二回以降は1安打と沈黙を続けていた鳥取城北打線が、阪上陸、畑中の安打などで好機を広げると、三塁側アルプスから選手を後押しする手拍子が巻き起こった。距離を取って座る部員や保護者たちが大きく手を叩いていた。感染対策のため例年のように声を出して応援することはできないが、それでも、鳥取城北の攻勢ムードが球場を包み込んだ。2番・岡本京太郎が死球でつないで満塁とし、打席に河西が入る。

「手拍子は岡本の打席の時から聞こえていました。鳥取県の独自大会では、手拍子の応援はなかった。甲子園で自然と出てきたんだと思います。(アルプススタンドの)ベンチ外の部員106人の思いを感じて、ワクワクしながら打席に入りました。心の中で一緒に手拍子をするくらいに」

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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あとアウト一つで…訪れた運命の一瞬