客は入場時に手指消毒を行い、劇場内ではマスク着用。歌舞伎ではおなじみの大向こうや掛け声も飛沫(ひまつ)が飛ぶため禁止。幕あいがないため、館内での弁当や軽食、土産販売もしない。橋本支配人はこう語る。

「歌舞伎座は演目鑑賞だけでなく、お芝居という総合的な楽しみを味わっていただくところ。お客様と舞台の双方向性があり、そこで帯びる熱が相乗効果となって盛り上がります。大向こうも幕あいの弁当もお芝居見物ならではの楽しみですが、それらを我慢していただくのは本当に残念です」

 通常の昼夜2部制では、1部に約300人ものスタッフが携わる。4部制にして各部スタッフを最小限にし、演目の選定は登場人物の数や内容などからも吟味したという。

「親子獅子による毛振りが見せ場の『連獅子』に出演する役者は4人。唄や演奏などを行う地方(じかた)も人数を減らしています」

 出演者と裏方も各部で完全入れ替え。万が一、どこかの部で感染者が出ても、他の部の公演を続行できる余地を残した。

 楽屋でも検温、消毒、マスク着用などの注意を払い、関係者同士の「あいさつまわり」も禁止。舞台を支える裏方にもかなりの負担がのしかかる。それでも、舞台を再開したいという一念で、関係者は一致団結していると橋本支配人は言う。

「まずは舞台を開けたい。お客様に見ていただきたいという気持ちが一番。でも、8月の再開はあくまで第一歩。万が一何かあれば次の歌舞伎の興行や、日本の演劇そのものへの影響も大きいことを肝に銘じています」

 4部制にしたことで、昼夜2部制なら1等席1万8千円の観劇料(税込み)が、今回は8千円に(2等席5千円、3等席3千円)。しかも客席は半分以下に減らしているため、興行側としては収益面でかなり厳しいのが現実だ。それでも橋本支配人は、「歌舞伎の伝承」のためにも、一日も早い再開が必要と考えている。

「400年以上続いてきた歌舞伎は、日々の稽古や裏方の準備だけでなく、毎日舞台に立つことで伝承されるもの。興行がなくなるとそれが途絶えてしまう。先日、ある三味線屋が廃業に追い込まれましたが、歌舞伎は特殊な技術を持った人たちの集まりですから、彼らの存続のためにも公演を行う意義があるのです」

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