さらに、安倍政権だからこそ心配になることが二つある。まず、敵の動向を探るうえで、衛星写真や暗号解読などだけではなく、韓国の人的なネットワークを使った情報が極めて重要になるが、安倍政権下では韓国の協力を得ることはできない。

 次に、危険なのは、米中対立の激化だ。敵基地攻撃の議論は、実は、安倍政権の仮想敵国である中国を念頭に置いたものだ。今、世界の賢者たちが、台湾有事から米中戦争というリスクを真剣に語り始めている。そうなったとき、在日米軍基地は対中戦争の前線基地になる。トランプ大統領は、日本に「集団的自衛権」を発動して参戦せよと言う。一方、日本が中国を攻撃するミサイルを保有しているから、中国は反撃態勢を整える。そこで、トランプ大統領が安倍総理に「中国が日本攻撃の準備に着手したぞ。日米の自衛のためにミサイルを撃て」と言ったら、安倍総理は簡単にその言葉に乗るだろう。それこそ安倍総理の悲願かもしれない。

 こんな危ないことについて「検討」することすら馬鹿げている。言葉が変わっても騙されてはいけない。自民党は「北朝鮮が!」「中国が!」と危機感を煽るだろうが、そんな脅しに負けてもいけない。国民は「敵基地攻撃能力保有論」を断固拒否すべきだ。

週刊朝日  2020年7月24日号

著者プロフィールを見る
古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

古賀茂明の記事一覧はこちら