このようなコロナによる世界の変化には、二つの見方があります。一つはイスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏によるハラリモデル。普段は時間をかけて行うことがあっという間に展開されてしまうので、不可逆的な変化をもたらすという考えです。もう一つがトッドモデルです。フランスの歴史家・人口学者、エマニュエル・トッド氏の言うように、何も新しいことは起きていない、今までに起きていたことが加速しているだけだと。(イギリスがEUを離脱する)ブレグジットにしても、アメリカのトランプ政権にしても、これはネーションの強化でグローバリゼーションに歯止めがかかっている。すでに起きていたことなのです。この2人の結論は一緒なんですね。国家機能が強化されることと、格差が広がっていることと。現象面では一緒ですけれど、見方としては大分変わってきます。

池上:今の状況は、後者のトッドモデルに近いかなと思います。

佐藤:私もそう思います。

池上:つまり、5年先、10年先にいずれ起きるだろうと思ったことがいきなり今起きてしまった。ですから佐藤さんがおっしゃったように国際情勢でも言えますし、日本国内でもリモートワーク(在宅勤務)を増やすとか言って全然できなかったのに、突然強いられる形で実現できちゃったわけです。

佐藤:しかし、トッドモデルだというのは論壇の中で少数派だと思うんですよ。

池上:そうですか。経済の面から見ても、トッドモデルがあてはまると思いますよ。いわゆる新自由主義が全くダメだということ。世界中で新自由主義がどんどん進んでいましたが、効率一本やりでやると危険なことになるんだということが今回明るみに出たのではないかと見ています。イタリアでは財政危機から医療機関などを統廃合したところ、悲惨な医療崩壊が起きてしまった。アメリカでは、多くの企業が自分の会社の株価を上げるために自社株買いを進めていましたが、コロナの影響で経済活動が突然止まり、自社株買いしていたために手元資金がなくなってパニックになったということが起きています。ドルを現金で持っていなければいけないということで、日銀がドルを市中に供給するドルオペが起きました。とにかく株主の利益を最大化するということが、いかに危険なことかを思い知った企業が多いんじゃないかと思いますけどね。

次のページ