佐藤:今回はリーマン・ショックの時とは順番が逆ですよね。リーマン・ショックというのは、金融危機が起きて、それから産業にきたんだけども、今回は産業で、しかもローカルな中小零細企業のところにまずきましたよね。どうしてかと言うと、観光や飲食ですから。ここは企業数にしたら全体の99.9%を超えるでしょ、恐らく。で、GDP(国内総生産)からしたら7割ぐらいですよね。そこの根っこのところが崩れたら日本がめちゃくちゃになるわけですよ。

 だから、資産がなくて、生活の糧が失われる人はいかなる方法でも助けないといけない。裏返すと、中小企業でいわゆるゾンビ企業みたいなものは再整理しちゃえばいいんだっていうのが、ここ20年ぐらいの小泉政権以降のトレンドだったんだけども、それに歯止めがかかっていますよね。

 それからこの次に何が起きてくるかというと、グローバルなサプライチェーン(供給網)が崩れているので、製造業に影響が出てくる。車や家電製品などの耐久消費財や、アパレル系などの買い控えが起きてくると思う。需要の減少が国際規模で起きてグローバル企業への打撃が大きくなってきます。運転資金だけじゃなくて、本当に財務指標が悪くなるという状況になると、これが金融危機を誘発する。バブルから生じた金融危機じゃなくて、ボトムから経済が悪化していくことによって金融危機が起きるということになります。血流が悪くなって、その結果、心臓がやられちゃうと。恐らく各国政府はいかなる対価を払ってでも、金融危機だけは起こさせない。そのために、ジャブジャブとお金をいくらでも入れる金融緩和をしていると思うんですよ。

池上:佐藤さんがおっしゃったように、とにかく金融不安だけは起こしてはいけないと、資金をジャブジャブに提供しているでしょ。結果的にアメリカでは景気が悪いのに株価が回復しつつあるという摩訶(まか)不思議なことが起きているわけですよ。

佐藤:こうして国家機能が強化されて、世の中の経済合理性とは違う形で経済政策に介入するということになると、新自由主義前の病理がもう一回出てきます。スタグフレーションです。インフレと不況の同時進行ですよ。年金生活者とか学生とか、シングルマザーで非正規雇用者とか、こういう人たちへのしわ寄せがものすごくきますよね。

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