一方で、江戸時代の儒学者、佐藤一斎の『言志四録』にはこうあります。

「自分を責めることのきびしい人は、人を責めることもきびしい。他人を思いやることの寛容な人は、自分を思いやることも寛容である。これらは皆、厳なれば厳、寛なれば寛と、一方に偏していることは免れない。立派な人間である君子は、自らを責めること厳で、他人を責めること寛である」(川上正光訳注、講談社学術文庫)

 つまり、自分よりも他人をより一層、許すようにしろということですね。

 中国明代の洪自誠による人生指南の書『菜根譚』にはこうあります。

「人が世の中を生きてゆく時には、自分から一歩をゆずることがよりすぐれた道である。この一歩をゆずることが、それがそのまま一歩を進める根本となるのである。人を遇する時には、完全なことを求めないで、九分ぐらいに止めて、あとの一分は寛大にして見過ごすようにするのがよいことである」(中村璋八・石川力山訳注、講談社学術文庫)

 他人に対しては寛大であることが、ひいては自分にとってもプラスになるというわけです。

 許すこころを持つというのは、ナイス・エイジングにとって、とても大事な柱ではないでしょうか。

週刊朝日  2020年6月19日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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