仕事から解放された土曜の夜。湯を浴びて、日本酒をゆっくりと口に運んでいると、オンライン会議サービス「Zoom(ズーム)」の画面がつながった。
「みなさま、どちらにいらっしゃるの?」
にっこりと問いかけるのは、観光地・箱根の芸者の女性だ。地元の名所や全国の花柳界のしきたりの違いなど、ユーモアを交えて話す。座敷で日本舞踊を披露し、踊りや唄に込められた意味も教えてくれる。遠隔でありながら文化的な空気も楽しめるひととき━━。
箱根湯本芸能組合は、オンライン関連サービス会社と組み、客が遠隔で楽しめる“オンラインお座敷”サービスを5月末に始めた。金・土曜日の限定で、国内客向け30分の料金が税込み1650円。1度に6人まで参加できる。英語の堪能な芸者が対応する外国人向けのコースも、6月半ばまで予約でいっぱいだ。
箱根湯本芸能組合の理事で芸者の松芳(まつよし)さんが言う。
「箱根には150人の芸者がいますが、コロナの影響で箱根からお客さまが姿を消しました。3月のお座敷は半分に、4、5月はゼロで、芸者の4分の1は実家に帰りました。『箱根に芸者はいますよ』と呼びかけるために、始めたのがオンライン座敷です。『お座敷に興味はあったけれど敷居が高かった』と喜んでくださる女性同士のお客さまもいらっしゃいますね」
都道府県をまたぐ移動の自粛が続き、観光地は苦戦する。秋田酒造(秋田県)や黒沢酒造(長野県)などオンラインを使った「バーチャル酒蔵ツアー」も各地に広がる。「冷蔵設備を備えた二つの酒蔵では、暑い季節にも搾りたての日本酒を味わっていただけるのが売りです」。こう話すのは、株式会社「日本酒にしよう」広報の棚橋広明さん。同社は、コロナ禍で在庫を抱える全国の酒蔵を救おうと、バーチャル酒蔵ツアーでも珍しい「日本酒4蔵の飲み比べ」の企画を立ち上げた。
また、メロンの一大産地である茨城県は6月7日に「オンラインメロン狩り」を開催。コロナの影響で百貨店でのPR販売ができないなかで、打ち出したアイデイアだ。