私は日銀がいつかは債務超過になり、日本経済が大混乱すると訴えてきた。それが現実になろうとしている。ほかの国も景気が悪化し株価は暴落するが、日本は中央銀行が危なくなる。金融市場で株式、円、債券の「トリプル安」になり、第2次大戦直後のような混乱が生じかねない。お札(日本銀行券)が事実上“紙くず”になり、新しいお札が登場することも想定される。

 経済が悲惨なことになっても、コロナウイルスはきっかけに過ぎない。財政の規律を緩め通貨の価値を危うくさせる政策のつけが回ってきたのだ。国債を日銀が直接引き受ける「財政ファイナンス」は禁じ手なのに、なし崩し的に行われてきた。

 危機が避けられないのなら、なぜこうなったのかを記録し分析すべきだ。そうしないと将来また同じ間違いが起きる。国は個人を助ける余裕はないので、まず自分で自分の身を守ろう。

 そのためにも世界最悪の赤字国家という日本の窮状を理解しておく。国の借金は約1100兆円で、経済規模を示すGDP比で見ると約240%。財政が悪化している米国でも約110%。日本の経済規模では借金を返すのは無理だ。

 日銀が異次元の金融緩和をして事実上の財政ファイナンスをしてきたことで、これだけの借金が可能になった。その代償として日銀の保有資産は膨らみ“超メタボ”になってしまった。

 私が金融マンのころは日銀は長期国債や株、リート(不動産投資信託)なんか買っていなかった。値動きが激しく損失の恐れのあるものは、中央銀行は買わないはずだった。それを破ったのが黒田東彦日銀総裁。上場投資信託(ETF)を通じて株を買い支えている。保有するETFの残高は35兆円を超えているとみられ、日経平均株価が1万9千円を下回る水準では含み損を抱える恐れがある。

 もっと怖いのは国債。日銀は約500兆円もの国債を保有していて、国債の価格が下がると一気に債務超過になる。一般の人にはわかりにくいが、国債も株と同じように価格は変動する。長期国債は償還までの期間が長いので、変動の影響が大きい。もし長期金利が1%でも上がれば、保有する国債の価格は25兆円以上は目減りする。日銀の保有国債の平均利回りは昨年9月末で0・26%。超低金利のなか利回りの低い国債を買ってきたので、金利上昇に弱い。

 日銀は「償却原価法」という簿価会計なので、国債が目減りしても評価損は発生しないと主張している。だが、金融の世界では原則時価会計。外資系金融機関は、国も中央銀行もつぶれるかもしれないという前提で取引している。日銀が簿価会計だから大丈夫だと主張しても、時価会計で危険性を判断する。

 外資系金融機関は、日銀の債務超過を予見した瞬間に、日本の金融機関や企業との取引を絞るだろう。円の信用が下がれば、金融機関や企業はドルが調達できなくなり、海外から原油や物資を買えなくなる。コロナショックでは世界中の金融機関や企業が基軸通貨のドルを持とうとして、一時円安になった。基軸通貨ではない円は、一気に信用を失うリスクがある。

 国債は日本人だけが買っているから大丈夫という意見もあるが、成り立たない。太平洋戦争の戦費調達のために発行した戦時国債は日本人がすべて買っていたが、ハイパーインフレで紙くずになった。ドイツも中央銀行を実質的につぶしている。戦争に負けたからだと思われるかもしれないが、中央銀行はつぶれないという「神話」は絶対ではない。神話を維持するためには、中央銀行は政府から独立して財務の健全性を守らなければいけないのに、それを破った。
 

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今は守りの時期 損切りも検討を