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■原真人(朝日新聞編集委員)
 
 今回の危機が大変深刻だという認識は藤巻さんと同じ。35年経済を取材してきて、これほど世界全体で経済が止まるような危機を見たことがない。「世界大戦」なみの経済的ショックだ。

 感染対策はおそらく数カ月で終わらない。感染拡大がいったん落ち着いても、ワクチンができるまでは経済活動の自粛が世界的に続く。もともと成長力がほかの国より小さい日本にとって、海外とのモノや人の流れが滞り、外需もあてにできなくなったのはたいへん痛い。

 コロナショックへの経済対策が難しいのは、消費拡大の景気刺激策をとれないところにある。感染症対策と経済対策はトレードオフ(両立できない状態)の関係だ。屋外に出るなというのは消費するなということに等しい。飲食店や宿泊施設などは壊滅的な打撃だ。

 一方、不況対策も必要だから、いつもなら減税や商品券の配布のような消費刺激策のメニューを並べるところ。だがこれでは外食や娯楽の消費を奨励することになり、感染対策との兼ね合いができない。つまりワクチンが開発されるか、多数が感染して免疫を持つまで自粛が続き、経済的な損失が膨らむことは避けられないということになる。

 だからいまの緊急経済対策は景気刺激ではなく、社会政策としてやるべきだ。所得が減った人、休業を余儀なくされる事業者の生活支援だ。景気刺激は感染が収束してからやればいい。

 政府の緊急経済対策の事業規模117兆円はGDPの2割に相当する。ただ、肝心のところに重点がおかれていない。私は財政悪化のもとでは、政府の経済対策の財政支出は抑制すべきだと主張してきたが、今回の危機では思い切って社会政策を打たないと日本経済の基礎体力が失われてしまう。コロナが終息してから景気を刺激しようとしても、企業が倒産し、失業者が街にあふれていたのでは経済再生のしようがないからだ。

 政府の緊急経済対策の柱のなかには、26兆円規模の納税・社会保険料の納付の猶予など評価できる対策もあるが、収入が途絶えた人が増える事態に備えて所得補償や休業補償の対策をもっと強化すべきだ。対策には10万円給付の予算として13兆円弱が盛り込まれたが、これではまったく足りないだろう。欧米諸国と比べて給付のスピード感でも見劣りする。消費税率を引き下げろという議論もあるが、これも消費刺激策なので当面は打つべきでない手だ。

 今さら後悔しても始まらないが、財政悪化や異次元の金融緩和の問題に手をつけないまま、このような危機を迎えてしまったことは大失敗だ。私も警鐘を鳴らしてきたつもりだが、藤巻さんは参院議員のときに国会でこの問題を繰り返し取り上げ、いつか危機が来ると訴えてきた。「オオカミ少年と呼ばれている」と本人は謙遜するが、この対談でもわかるようにその指摘が現実味を増してきた。
 

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緩和カードを切り尽くした日銀