原真人さんと私はこの問題を長年指摘してきたが、日銀は異次元の緩和をやめたくてもやめられなかったのだと思う。日銀が国債を買うのをやめた瞬間に価格が暴落し、金利が暴騰して、政府の予算が組めなくなる。異次元緩和は「デフレ脱却」が大義名分なのに、実際は政府の“資金繰り倒産回避策”なので、やめるわけにはいかない。

 命を守るための緊急経済対策は必要だが、そのためには政府は普段から健全財政につとめるべきだった。そうしておけば、財政均衡を憲法で定めていたようなドイツのように、今回のような本当に必要な時に思い切った財政出動ができる。

 原さんが指摘しているように、緊急経済対策の財源は国債の大量追加発行しかない。日本国債を買い増しているのは日銀と外国人投資家で、民間銀行などは保有を減らしている。外国人投資家は日銀の財務悪化が明確になれば撤退する可能性があり、結局すべて日銀が買い取るしかないだろう。

 緊急経済対策をやるにしても、将来の増税につながることを国民に説明すべきだ。お金をばらまいて、有権者の人気を取ろうとしてはいけない。経済危機では本当に食べられない人が増えるので、その人たちを救うことに注力する。ばらまけば資金が足りなくなり、助けるべき人も助けられなくなる。

 原さんが中間層の危機を指摘しているが、所得の再分配で格差を是正しようとすると、「全員が平等に貧乏」になってしまう。結果平等主義ではなく機会平等主義にして、今より競争社会を受け入れることも求められる。

 私は日本の財政や日銀が危ないと言い続けてきたが、ここまで来れば日銀の破綻は避けられないと思う。ただコロナ禍の最中にだけは起きて欲しくない。あまりに悲惨だからだ。だから、どこまでを税金で補償するかの見極めが重要なのだ。破綻してハイパーインフレになれば市場原理によって、日本経済は必ず復活する。私たちがやるべきことは、現実を認識してXデーに備えることだ。

 個人としてコロナショックをどう乗り切るか。一つは資産の現金化だ。いまは相場でもうけようとせず守りに入る時期。思い切って損切りすることも検討する。いったん株や投資信託を手放してでも、お金を多めに持っておく。タンス預金では危ないので、なるべく現金に近い金融商品にまわす。資産のすべてを円で持っておくのはリスクが高い。ドル預金やドルの短期金融商品で運用するMMF(マネー・マーケット・ファンド)がある。

 コロナショックをきっかけに働き方も変わる。年功序列型賃金や終身雇用制は限界だ。これからは雇用の流動化が進む。無理してブラック企業で働き続ける必要はない。外出自粛でリモートワークが広がり、働き方を見直す機会になった。会社にいる時間ではなく、どのくらいの成果を上げたかで評価される。一人ひとりが生産性を上げて、それに見合った報酬をもらうようになればいい。

 私たちは、今の厳しい状況を直視するところから始めないといけない。見たいものだけ見て、現実から目を背けてはいけない。ウイルスは目に見えないが、経済や社会の状況は見極めることができる。暗い話ばかりだと落ち込まず、みんなが自分を守るために行動すべき時だ。

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グローバリズムを考え直すきっかけに