研究室にはさまざま道グッズが置かれているが、国道1号と8号のミニチュアには物語がある。1号と8号は重複する区間があるが、かつては1号しか表示されていなかった。「一桁にもかかわらず、表示されないのはあんまりだ」と考え、業者に頼んで作ってもらったそうだ。するとその思いが通じたのか、17年に1号と8号が表示された標識が設置。「京都に新名所ができた」と一部で話題になったらしい。

 地下にある実験室では、高速道路の標識や、道路に設置する照明を発見。

「100ボルトでも使えるように改良して、読書に使えるようにしたんです。煌々と輝いていましたよ」

 こうした道路グッズの収集のみならず、一般の人にも国道について考えるきっかけにしてもらおうと、高橋教授は「国道カード」を2012年に開発。ダムを巡るともらえる「ダムカード」の成功をモデルにしている。カードは道の駅で配っていたが、継続的な配布の仕組みが整わず、残念ながらいまは配布していない。

 カードは名刺大の大きさ。国道の標識とともに、特徴的な風景が写っている。裏面には国道の位置を示す地図と、その道に関する“物語”が載っている。色々と想像を駆り立たせるものも多い。

さらに、高橋教授は「道カードを作ってみよう!」というサイトをつくり、全国各地の道マニアから情報提供を受けている。研究(専門は耐震工学)で多忙な日々を送る中、夜な夜な徹夜して制作したものだ。

「写真には道路標識を写す必要があるなど、ルールを作って運営している。もう一度配布する仕組みができればとも考えていますが、少し疲れちゃって……。あっ、ちなみに国道の標識は『おにぎり』と言います。おにぎりみたいに見えるでしょ?」

 一般人には同じように見える標識も、よく観察すると興味深い代物なのだとか。実はそこに書かれた文字や数字の書体は何種類もあるという。その理由を尋ねると、「人がつくるからですよ」と含蓄のある返事が返ってきた。

 道ちゃんはこう語る。

「人によって違う。それがいいんです。標識には時々エラーがあるんです。例えば、スペルが間違っていて、OとUがひっくり返って、RUOTEになっていたり。でも、いちいちめくじらをたてなくてもいいんですよ。これ、イタリア語で『車輪』という意味なんですよね。『わざと間違えたのか』なんて想像ができるから。そっと楽しめばいいんです」

 好きなものを極めると、ある種の悟りの境地に入るようだ。

(本誌・吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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