高橋教授が本物の国道を作っている業者に特注した標識。「172号は標識が設置されていないんです。だから自分でつくってしまいました」(撮影・吉崎洋夫)
高橋教授が本物の国道を作っている業者に特注した標識。「172号は標識が設置されていないんです。だから自分でつくってしまいました」(撮影・吉崎洋夫)

 道ちゃん。鉄道マニアが鉄っちゃんならば、道ちゃんは道路マニアのことを指す。京都大学大学院工学研究科の高橋良和教授は自他ともに認める道ちゃんだ。道路の中でも特に国道を愛してやまない。その高橋教授の導きで、知られざる国道マニアの世界をのぞいてみた。

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「一番のお気に入りは国道58号。海上国道なんです」

 鹿児島から種子島、種子島から奄美大島、奄美大島から沖縄本島をつなぐ880キロにも及ぶ国道。しかし、実際には海底のトンネルや海上の橋など目で見てわかるような「道」はない。フェリーなど大型船が航行するルートなのだ。もちろん、他の陸上の道と同様に由緒ただしい国道で、道路法に基づく政令で起点と重要な経由地、終点が定められている。

「実際には道がなくても、沖縄と鹿児島を国道が結んでいるんです。そう考えると、ロマンがあるでしょ」

 さらに注目すべきはその番号。58号は、沖縄返還の1972年に指定された道路。1965年以降は3桁の番号が付けられていたが、主要な都市を結ぶ国道が一桁から二桁の数字を使っていたため、特例として二桁数字がつけられたという。

「機械的に番号をふられているようで理由がある。その熱い思いに泣きそうになるんですよ」

 国道への愛が自然とあふれ出てしまう高橋教授。ほかにも全国にある興味深い国道を教えてくれた。

■階段国道 
青森県・津軽半島の最北端の竜飛崎につながる国道339号で、階段。一時は国道からの格下げも検討されたが、今では観光地になっているという。

■エレベーター国道 
九州と本州とをつなぐ関門海峡にある地下の歩道と地上を結ぶエレベーター。ちなみに、地下の歩道も国道。

■国道19号と361号の重複区間 
19号は愛知から長野をつなぎ、361号は岐阜から長野を結ぶ道で、長野県木曽町で重複区間がある。国道は英語でルート。ルート361の平方根は、なんと19だというのだ。「意図せずこれらの数字がつけられたなんて奇跡。すごすぎるでしょ」

■極道13号
国道ではないが、南極で日本の観測隊が作った道路。国道と同じ形をした標識がある。キョクドウと読む。高橋教授は小学生のころ、南極に行くことに憧れた。それがきっかけで、南極での地震の研究に関心を持ち、土木の世界に入ったという。「僕はここに行く必要があるんです」と熱い思いを持つが、まだ行ける予定はない。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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